根粒菌共生効率を制御するマメ科植物プロテアーゼ

要約

特定の根粒菌株との共生の効率を制御するマメ科植物の根粒プロテアーゼにより、共生に不適な根粒菌に対しても、うまく共生を維持させるマメ科植物の共生戦略が明らかになるとともに、共生窒素固定の農業へのさらなる有効活用が期待できる。

  • キーワード:マメ科植物、根粒菌、共生、窒素固定、プロテアーゼ
  • 担当:生物機能利用研究部門・植物・微生物機能利用研究領域・植物機能開発ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ダイズなどのマメ科植物は、根粒と呼ばれる特殊な器官に窒素固定細菌(根粒菌)を住まわせ、根粒菌が固定した空気中の窒素を栄養源として利用する。この共生の能力を活用することで、マメ科植物では窒素肥料に依存しない栽培が可能になると期待されている。一方、根粒菌の中には、マメ科植物に住み着き根粒を形成するにも関わらず、窒素固定を行えない不良根粒菌が複数存在しており、現在の農業生産において、そのような不良根粒菌が優先的にマメ科植物に住み着くことで優良な根粒菌の共生が妨げられ、共生窒素固定の能力が十分に発揮されないことが問題となっている。本研究では、マメ科植物の突然変異体と、その変異体において窒素固定を行えない根粒菌を用い、窒素固定がうまく行かない原因を明らかにすることで、窒素固定活性を発現する仕組みを解明する。

成果の内容・特徴

  • マメ科のモデル植物であるミヤコグサにおいて、窒素固定に異常をきたす共生変異体(apn1変異体)を同定している。apn1変異体の原因遺伝子(APN1)は、アスパラギン酸プロテアーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素をコードしており、根粒の中で根粒菌が感染している細胞で働いている(図1)。
  • apn1変異体は、ミヤコグサ根粒菌(Mesorhizobium loti)の菌株に応じて異なる窒素固定活性を示す(図2)。
  • apn1変異体において窒素固定ができないミヤコグサ根粒菌(TONO株)では、細菌に広く存在するオートトランスポーターと呼ばれる細胞膜貫通型のタンパク質分泌装置(DCA1)(図3)が働いている。DCA1遺伝子を破壊したTONO株は、apn1変異株において窒素固定活性のある正常な根粒を着生する(図2)。このことから根粒菌のDCA1は窒素固定を妨げる効果を持つ遺伝子であると考えられる。
  • ミヤコグサのAPN1と根粒菌のDCA1の組換えタンパク質を作製し、両者を反応させると、APN1はDCA1を分解する。
  • 以上の事から、窒素固定を低下させる根粒菌のDCA1の効果を、宿主植物のAPN1が打ち消すことによって、正常な窒素固定活性が発現できるように宿主植物が根粒菌の窒素固定機能を制御していることが明らかとなる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 窒素固定の妨げとなる根粒菌側の遺伝子および窒素固定活性を維持しようとするマメ科植物側の遺伝子の働きを解明し、それらを機能改変することにより、不良根粒菌との非効率な共生を改善し、根粒共生による窒素固定の利用効率を向上させる技術開発に繋がることが期待される。

具体的データ

図1(A)ミヤコグサのAPN1タンパク質の構造。(B)根粒内部におけるAPN1遺伝子の発現。,図2 apn1変異体はミヤコグサ根粒菌の菌株に応じて異なる窒素固定活性を示す。,図3 ミヤコグサ根粒菌のDCA1タンパク質の立体構造。図4 ミヤコグサと根粒菌の共生窒素固定活性を決定するメカニズム

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2010~2020年度
  • 研究担当者:下田宜司、梅原洋佐、伊藤(山谷)紘子(日大)、林誠(理研)、山崎俊正、西ヶ谷有輝、稲垣言要、箱山雅生(理研)、河内宏(国際基督教大)、柴田哲(三菱マテリアル)、Md Shakhawat Hossain(米国ミズーリ大)、佐藤修正(東北大)、平川英樹(かずさDNA研)、金子貴一(京産大)、川口正代司(基生研)
  • 発表論文等:
    • Yamaya-Ito H. et al. (2018) Plant J. 93:5-16
    • Shimoda Y. et al. (2020) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 117:1806-1815