植物における一体型ベクターを用いたCRISPR/Cas9を介した汎用的精密ゲノム編集技術ジーンターゲッティング系の確立

要約

シンプルで簡便な一体型ベクターと相同組換え活性化剤処理を用い、CRISPR/Cas9による標的遺伝子へのDNA二重鎖切断誘導を介したジーンターゲッティングにより、イネでの任意変異の導入が可能である。また、タバコにおいても内在性遺伝子を精密に改変することができる。

  • キーワード:精密ゲノム編集、ジーンターゲッティング、相同組換え、CRISPR/Cas9、DNA二重鎖切断
  • 担当:生物機能利用研究部門・遺伝子利用基盤研究領域・先進作物ゲノム改変ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

相同組換え(HR)を介したゲノム編集技術であるジーンターゲッティング(GT)は、標的遺伝子を狙い通りに改変することが可能なために機能獲得型変異体の作出には不可欠な技術である。これまでに、イネおいてはポジティブ・ネガティブ選抜法を利用した再現性のあるGT系が確立されてきたが、その効率は満足できるものではなく、他の植物種に適用されていない。一方、標的遺伝子におけるDNA二重鎖切断(DSBs)の誘導はGT効率を向上させることが明らかになっているが、近年、CRISPR/Cas9を用いて標的遺伝子に特異的にDSBsを誘導させることが可能となった。そこで本研究では、CRISPR/Cas9を介した標的遺伝子へのDSBs誘導と相同組換え因子の一つであるRad51の活性化剤の併用によって、イネだけでなく他の植物種にも適用可能なGT系の確立に取り組む。

成果の内容・特徴

  • 本成果で確立したGT系の概要を図1に示す。標的遺伝子を切断するCRISPR/Cas9発現カセット、選抜マーカー、GTの鋳型配列を配置した一体型ベクターをイネカルスに導入し、選抜の過程で標的遺伝子にDSBsが生じて、それがゲノム上の鋳型配列を利用したHRで修復された場合、鋳型上の任意の変異が標的遺伝子に挿入される。Rad51活性化剤であるRS-1で処理すると、限定的ではあるが変異導入効率が向上する。
  • CRISPR/Cas9による標的切断誘導とRS-1処理の併用によって、GT効率は0.2%と低いながらもイネ内在性アセト乳酸合成酵素遺伝子OsALSを改変し、除草剤耐性を付与できる(図2A)。標的遺伝子における改変をホモ型で保有し、一体型GTベクターを持たない次世代の個体(図2B, 2C)は、除草剤耐性を示す(図2D)。
  • 同様のGT法により、これまで再現性のあるGT系が確立されていなかったタバコにおいても複数の内在性遺伝子を精密に改変することができる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果で確立したGT系を利用し、アグロバクテリウムを介した形質転換法が確立されているイネやタバコ以外の植物種においても精密ゲノム編集法を適用できると期待される。
  • 本方法ではGTベクターを植物ゲノムに組み込むため、外来遺伝子を後代で遺伝分離できない栄養繁殖性の植物種にはそのまま適用できず、ベクター除去法の確立など課題が残されている。

具体的データ

図1 一体型ベクターを用いたCRISPR/Cas9を介したジーンターゲッティング系の概要,図2 一体型ベクターを用いたCRISPR/Cas9を介したGTによるイネ内在性遺伝子(アセト乳酸合成酵素遺伝子, OsALS)の改変

その他

  • 予算区分:交付金、農研機構研究支援要員の雇用経費補助、競争的資金(JST・さきがけ)、その他外部資金(SIPII)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:横井 彩子、三上 雅史、土岐 精一
  • 発表論文等:・Nishizawa-Yokoi et al. (2020) Front. Genome Ed. Section "Genome Editing in plants"
    doi: 10.3389/fgeed.2020.604289