BT剤の有効成分の一つ、Cry2Aに対する抵抗性の原因遺伝子

要約

ABCA2遺伝子に機能欠損変異を導入したカイコはBT剤の有効成分Cry2A毒素に対する感受性が著しく低下することから、Cry2A毒素に対する抵抗性因子はABCA2である。ABCA2変異のモニタリングにより、BT剤抵抗性発達のリスク評価が可能である。

  • キーワード:ゲノム編集、BT剤抵抗性、Cry毒素、ABCトランスポーター、逆遺伝学的解析
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫微生物機能ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

BT剤は昆虫病原細菌バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)を原体とする微生物農薬であり、有機農法で化学農薬に代わる殺虫剤として使用される他、薬剤ローテーションにおける主要な殺虫剤の一つとして農業現場で利用されている。また、BT剤の殺虫成分であるCry毒素は幅広いGM作物に導入されている。1980年代後半から現在に至るまで、BT剤抵抗性害虫の出現が散発するという問題が生じており、抵抗性発達メカニズムの解明が求められている。
そこで、本研究ではゲノム編集技術により候補遺伝子の機能欠損変異カイコを作出し、Cry毒素抵抗性因子としての機能評価を行うことにより、抵抗性発達の原因遺伝子を特定する。

成果の内容・特徴

  • TALENを用いたゲノム編集技術により、ゲノム中のABCトランスポーターファミリーAメンバー2(ABCA2)遺伝子翻訳領域に機能欠損変異を導入したカイコを3系統作成する(図1)。
  • 機能欠損変異系統(A2T01, A2T06, A2T14)では野生系統(WT)と比較して、Cry2AaとCry2Abに対する感受性が著しく低下する(図2)。
  • 一方、Cry2A以外のCry毒素(Cry1Aa, 1Ab, 1Ac, 1Ca, 1Da, 1Fa, 9Aa)に対する感受性は機能欠損変異系統と野生系統との間で大きな違いはない(表1)。
  • 以上の結果は、ABCA2がCry2Aの受容体として機能し、ABCA2遺伝子変異が抵抗性発達の原因遺伝子であることを示す。

成果の活用面・留意点

  • ABCA2遺伝子変異のモニタリングにより、BT剤抵抗性発達を評価する簡便かつ迅速な遺伝子診断技術の開発に活用できる。

具体的データ

図1 ABCA2機能欠損変異系統の変異領域の塩基配列,図2 ABCA2機能欠損変異系統と野生系統のCry2A毒素感受性,表1 ABCA2機能欠損変異系統の各種Cry毒素に対する感受性

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:渡部賢司、宮本和久、和田早苗、髙須陽子、飯塚哲也、李校一(農工大)
  • 発表論文等:Li X.et al. (2020) Toxins 12:104 doi: 10.3390/toxins12020104