豚腎臓マクロファージ不死化細胞の豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス解析への利用
要約
豚腎臓マクロファージ不死化細胞(IPKM)は豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)の生体外(in vitro)での解析に利用できる。PRRSV野外株の分離・同定やワクチン株の研究開発・生産へのIPKM細胞の活用が期待される。
- キーワード:豚腎臓マクロファージ不死化細胞(IPKM)、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、in vitro評価系
- 担当:生物機能利用研究部門・動物機能利用研究領域・動物生体防御ユニット
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
豚繁殖・呼吸障害症候群(Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome, PRRS)は、PRRSウイルス(PRRSV)による感染症で、国内に広く浸潤し、養豚業に年間280億円(推計)に及ぶ甚大な被害を与えている。PRRSVの解析には、感受性を有する継代培養可能な動物細胞株が利用されるが、汎用されるサル由来のMARC-145細胞など非宿主動物に由来する細胞では、多様性の大きなPRRSV野外株の分離や増殖が容易ではない。またPRRSVは、体内に侵入した異物の排除などを司るマクロファージを主な標的とするが、豚由来の既存のマクロファージ細胞株はその特性を欠失しているためPRRSVに感受性を示さず、本ウイルスの分離・増殖や解析に利用できない。我々は、独自の手法により豚の腎臓からの不死化マクロファージ(IPKM細胞)の樹立に成功していることから、本研究では、この細胞株がPRRSVの解析において適性を有するか否かを評価する(図1)。
成果の内容・特徴
- 国内で野外採取したPRRS罹患豚の32種類の試料についてウイルスの検出率を比較すると、MARC-145細胞では5サンプルでウイルスが検出されるのに対し、IPKM細胞では11サンプルで検出される。このように、IPKM細胞ではMARC-145細胞で検出できないPRRSV野外株の検出と分離が可能である。
- IPKM細胞は、国内で確認される遺伝学的に系統が異なる様々なPRRSV野外株に対して広く感受性を示し、感染する(図2)。
- PRRSV野外株4株及び弱毒生ワクチン株2株を感染させた細胞を10代継続して培養すると、MARC-145細胞ではワクチン株1株を含む5株のウイルス増殖が10代目までに検出できなくなるのに対し、IPKM細胞では全6株のウイルスが培養期間を通じて検出できる。このように、IPKM細胞はPRRSV株を安定的に感染・増殖させることができる。
- マクロファージの性質を変化させることが知られるステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾン(DEX)でIPKM細胞を処理すると、PRRSVの細胞への感染に必要な受容体として知られるCD163の細胞膜上の発現が顕著に増加する(図3)。DEX処理したIPKM細胞は、PRRSV感染におけるCD163の役割を解析するための有用なツールとして期待される。
成果の活用面・留意点
- IPKM細胞は、多様なPRRSV野外株の安定的な増殖に利用できる。
- IPKM細胞は、より多くのPRRSV野外株に効果を有するPRRSワクチン製造用の株化細胞として利用が期待される。
- 現在検討している範囲では、DEX処理したIPKM細胞におけるCD163の発現量とPRRSVの感受性に相関が見られていない。しかしながら、本細胞モデル系を利用して、PRRSVの他の受容体分子の発現動態を含めて網羅的に解析することで、詳細なPRRSV感染メカニズムの解明が期待される。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
- 研究期間:2018~2020年度
- 研究担当者:竹之内敬人、両角岳哉(日本ハム)、和田絵美(日本ハム)、鈴木俊一、西山泰孝(日本ハム)、助川慎(日本ハム)、上西博英
- 発表論文等: