遺伝子組換えカイコのクローン化方法

要約

単為発生系統と非休眠性系統との交配に基づいた、遺伝子組換えカイコをクローン化するための実用的な手法である。遺伝子組換えカイコによるバイオ医薬品原薬の生産方法が、医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(GMP)に準拠しやすくなることが期待される。

  • キーワード:クローンカイコ、単為発生、バイオ医薬品原薬、GMP、マスターセルバンク
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・カイコ機能改変技術開発ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

バイオ医薬品原薬の生産にはGMP(※)準拠が求められ、遺伝子組換え大腸菌や培養細胞のクローン個体を利用したマスターセルバンク/ワーキングセルバンク(MCB/WCB)方式による生産がなされている。カイコの場合も、単為発生系統(※※)幼虫卵巣をオス幼虫個体へ移植し非休眠化させた未受精卵から遺伝子組換え体(※※)を作出すればクローン化できる(Zabelina et al 2015、図2方式V)ため、GMP準拠が可能だと言えるものの、非休眠化のための卵巣移植の難易度や費用など、従来技術には実用化に問題があった。
そこで、本研究では、単為発生系統と非休眠性系統との交配後代を利用する方法によって、遺伝子組換えカイコの実用的クローン化技術の開発を図った。
(※)GMPとは、バイオ医薬品の品質や製造プロセスの同等性を確保するための基準
(※※)単為発生系統は、通常では強い休眠性を示し、成熟未受精卵を単為発生させて維持する
(※※※)カイコの遺伝子組換え操作は、通常は非休眠系統の受精卵に対して行う

成果の内容・特徴

  • 単為発生系統と非休眠性系統との交配によるF1及びF2世代を選抜し、高い単為発生率を有する非休眠性系統を育成した(単為発生・非休眠性スクリーニング)。この系統は、メス成虫卵巣から摘出した成熟未受精卵の単為発生によって維持されるため、系統自体がクローンである。
  • 1の方法による系統の成熟未受精卵に対する遺伝子組換え操作は、単為発生処理の過程中に行う必要があるため、常法とは異なる(図2方式A)。
  • 単為発生系統と非休眠性系統との交配によって得られた卵(F1受精卵)に対し、常法にしたがって遺伝子組換え操作を行ない、受精卵を飼育した。羽化したメス成虫卵巣から摘出した成熟未受精卵に対し、常法にしたがって単為発生処理を行ない発生する(結果的に単為発生・非休眠性に関してスクリーニングされた)胚を対象に、遺伝子マーカースクリーニングを行なって遺伝子組換え個体を獲得した。
  • 3の方法による個体は、羽化したメス成虫卵巣から摘出する成熟未受精卵の単為発生によって維持され、遺伝子組換えクローンカイコ系統となる(図2方式B「特願2020-180183」)。

成果の活用面・留意点

  • 本方法では、作成された遺伝子組換えカイコ成虫の成熟卵巣から単離した未受精卵を、常法にしたがって単為発生させることによって、遺伝子組換えクローンカイコを取得することができる。
  • 遺伝子組換えクローンカイコ幼虫から摘出し凍結保存した幼虫卵巣は、他の幼虫個体へ移植し、その幼虫を羽化させることによって成熟卵巣として再生することができる。
  • 幼虫卵巣を凍結してMCBとし、及び、凍結幼虫卵巣から成熟卵巣へと再生され取得されたクローンカイコ個体群をWCBとすることによって、遺伝子組換えクローンカイコ技術を利用したバイオ医薬品原薬となる組換えタンパク質生産のGMP準拠が図られる。

具体的データ

図1 単為発生を利用した遺伝子組換えカイコのクローン化(右)の概念図,図2 遺伝子組換えカイコのクローン化方法,表1 従来の遺伝子組換えカイコの問題点とクローンカイコの利点

その他

  • 予算区分:交付金、理事長裁量型目的基礎(2016、2017年度)競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:米村真之、飯塚哲也、内野恵郎、瀬筒秀樹
  • 発表論文等:
    • 米村ら「遺伝子組換えクローンカイコの作製方法」特願2020-180183(2020年10月28日)
    • Zabelina V. et al. (2015) J. Insect Physiol. 81:28-35