新規ナノバイオ強化材料の開発に繋がるシルクフィブリル階層構造の評価法

要約

カイコやミノムシの糸などシルクが有するフィブリル階層構造を、小角X線散乱法を用いて定量かつ階層的に解析・評価する方法である。フィブリルの均一性や発達度合いを評価可能であり、シルクフィブリルを利用した新規ナノバイオ材料の開発に繋がる最適シルクの選定を可能とする。

  • キーワード:シルクナノフィブリル、ナノバイオ強化材料、タフネス、脱石油化、小角X線散乱法
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・新素材開発ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

環境配慮の観点より、航空機や自動車の車体、スポーツ用品のフレームなど耐衝撃吸収性を要する構造材料の軽量化と脱石油化が強く求められている。高タフネス性を示すシルクの最小構造単位であるシルクナノフィブリル(SNF)は、プラスチック複合材料における耐衝撃吸収性ナノバイオ強化材としての振舞いが期待されることから、セルロースナノファイバー(CNF)の弱点である高タフネス性と長繊維性を補いうる新しい素材開発の可能性を提示する。しかし、シルクのフィブリル階層構造を定量的かつ階層的に評価する方法は確立されておらず、フィブリル化に適したシルクの選定やナノバイオ強化材としての具体的な材料設計を進める上で課題も多い。本研究では、小角X散乱法を用い、シルクのフィブリル階層構造を定量的かつ階層的に解析・評価する方法を構築する。

成果の内容・特徴

  • シルクの繊維束から得られる小角X線散乱パターンの赤道散乱(繊維の直径方向に現れる散乱)から(図1a,b)、ナノフィブリルの直径を定量的に評価できる(図1c)。
  • 小角散乱パターンに複数の赤道散乱パターンが得られた場合には、各散乱角の関係を解析することで、ナノフィブリルの集合様式を階層的に評価できる(図1c)。
  • カイコシルクのフィブリル階層構造は、平均直径4.7nmのナノフィブリルが六方細密充填様式で集合した約54nmのナノフィブリルバンドル(ミクロフィブリル)を形成している(図2)。
  • ミノムシや野蚕のシルクも同様に約4.7nmのナノフィブリルを最小構造単位とするフィブリル階層構造から成る。なかでもミノムシシルクは、ミクロフィブリルの直径がカイコシルクの約3倍と太く、良く発達したフィブリル階層構造を有する。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で確立した解析手法は、カイコ、ミノムシ、野蚕、クモなど任意のシルクに対して用いることができる。
  • 本解析手法で得られるフィブリル階層構造情報は、シルクの構造と物性の因果関係の解明を目指す上で有用な知見となり、様々なシルクの知見をデータベース化することで、スマート素材開発の基礎データとして活用できる。
  • 本解析手法により得られるシルクのフィブリル階層構造情報は、SNFを耐衝撃吸収性構造材料の新規ナノバイオ強化材料として利用するための、適切なシルクの選定や材料設計に役立つ。

具体的データ

図1 (a) カイコシルクのX線散乱パターン(左から順に、広角X線散乱パターン、小角X線散乱パターン、小角赤道一次散乱)、(b) 赤道q-プロファイル、(c) 二つの赤道散乱を与える構造サイズ(4.74 nmと4.11nm)の関係性(4.74 nm:4.11nm = 2 : 3)を満たす六方細密充填集合モデル,図2 小角X線散乱解析により構築したカイコシルクのフィブリル階層構造モデル

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(SATREPS), 科研費基盤 (C)18K05250
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:吉岡太陽、亀田恒徳
  • 発表論文等:Yoshioka T. and Kameda T. (2020) J. Silk Sci. Tech. Jpn. 28:129-135