大規模スクリーニングから得られた新規幼若ホルモン活性化合物

要約

幼若ホルモン活性を化学発光により簡単に評価できる培養細胞システムを用いて、化合物ライブラリーから新規幼若ホルモン活性化合物を複数発見した。発見された幼若ホルモン活性化合物は昆虫の正常な発育を阻害することから、新規昆虫成長制御剤の有望な候補になる。

  • キーワード:昆虫、変態、幼若ホルモン、幼若ホルモン活性化合物、昆虫成長制御剤
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫機能制御ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

害虫防除の現場において、既存の殺虫剤が効かなくなる抵抗性の問題が深刻化しており、安定的な農業生産を持続するためには,新たな殺虫剤開発が必要不可欠である。昆虫の変態を抑制する幼若ホルモンは昆虫固有のホルモンであるため、環境負荷の低い殺虫剤開発を行う上で優れた標的になる。そこで、幼若ホルモンの作用(幼若ホルモン活性)を簡便に評価できる培養細胞系と、化合物ライブラリーを用いて大規模なスクリーニングを行い、新規昆虫成長制御剤候補を探索する。

成果の内容・特徴

  • 幼若ホルモン応答配列とホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結した外来遺伝子をカイコ培養細胞に導入したシステムにより、化合物の幼若ホルモン活性を化学発光の強度により簡単に評価できる(図1)。
  • 本評価システムと化合物ライブラリー(約1万化合物)を用いてスクリーニングを行うと、幼若ホルモン活性を示す候補化合物が10種に絞り込まれる(図2)。
  • スクリーニングで得られた10種類の候補化合物をカイコ5齢幼虫に塗布すると、繭を作りはじめるまでの期間が7種の化合物で延長する(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 幼若ホルモン活性化合物は、昆虫の蛹もしくは成虫への変態を抑制するため、害虫の増殖を抑え、農業被害を軽減することができる。
  • 本研究で見出された化合物の骨格構造をもとに、より活性の高い誘導体を合成し、農業害虫にも高い効果を示す化合物の開発が期待できる。
  • 近年、昆虫を用いた有用物質の生産や、昆虫を養殖飼料に利用するなどさまざまな分野で昆虫の有効利用を目的とした技術開発が行われている。本研究で見出された化合物を利用して、益虫の発育をコントロールできる可能性がある。

具体的データ

図1 幼若ホルモン活性評価システム。,図2 培養細胞評価システムのスクリーニングで得られた化合物の幼若ホルモン活性と化学構造。,表1 カイコ5齢幼虫に対する化合物の発育遅延効果

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2013~2020年度
  • 研究担当者:粥川琢巳、古田賢次郎、米須清明(東大創薬機構)、岡部隆義(東大創薬機構)
  • 発表論文等:
    • Kayukawa T. et al.(2021)J. Pestic. Sci. 46(1):53-59
    • 粥川ら、特開2022-111572(2022年8月1日)
    • 粥川(2020)日本農薬学会誌 45:97-103