新規骨格を有する幼若ホルモン拮抗阻害剤

要約

幼若ホルモン(JH)受容体とJHとの結合をコンピューター上でシミュレーションすることで得られた新規骨格を有する化合物は、JHの作用を抑制し、昆虫の変態を阻害する活性を示す。本化合物は、新規作用機序を有する昆虫成育制御剤としての利用が期待できる。

  • キーワード: 幼若ホルモン、拮抗阻害剤、分子シミュレーション、昆虫、昆虫成育制御剤
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫機能制御ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

既存の農薬に対して抵抗性を示す害虫の出現が大きな問題となっており、これまでとは異なる標的分子に作用する薬剤の開発が求められている。JH受容体であるMethoprene-tolerant(Met)は,脱皮変態だけでなく,卵巣成熟など昆虫の正常な成育において重要な役割を果たしていることが確認されており、昆虫成育制御剤の新しい標的分子として注目されている。そこで、JHおよび、これまでにJH拮抗阻害活性を示すことが報告されているNY52に着目し、コンピューター上で作成したカイコMet (BmMet1)の構造予測モデルとのドッキングシミュレーションを行い、構造と受容体への結合活性の関係を明らかにすることで、より高活性で新規骨格を有するJH拮抗阻害剤の探索を行う。

成果の内容・特徴

  • 分子シミュレーションソフトウェアMOEを用いて、BmMet1と類似性が高く立体構造が既知のタンパク質を鋳型としてBmMet1の構造予測モデルを作成すると、ドッキングシミュレーションによりJH拮抗阻害剤であるNY52のBmMet1に対する結合親和性を評価するシステムが構築される(図1)。
  • NY52の構造を基に、本評価システムを利用してBmMet1に親和性を示す新規化合物SF07を分子デザインすることができる(図2)。
  • JH応答配列とホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結した外来遺伝子をカイコ培養細胞に導入したJH活性評価システムにJHとSF07を同時に処理すると、JHによるルシフェラーゼ遺伝子の発現誘導がSF07により抑制される(図3)。SF07はNY52よりも高いJH拮抗阻害活性を示す。
  • SF07をカイコ幼虫に塗布すると、NY52より生物活性は低下するものの、JHの作用が阻害されることで通常よりも早く蛹になる現象である早熟変態などの発育異常を引き起こす(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本評価システムは、コンピューター上で様々な化合物のBmMet1に対する結合親和性を評価できるため、BmMet1に結合する可能性がある化合物を効率的に探索することが可能である。
  • JH拮抗阻害剤は、害虫に対して終齢幼虫を経ることなく蛹に変態させることで、最も食害が大きい終齢幼虫による被害を低減することができる。また、JH拮抗阻害剤は、これまでにない作用機序を有していることから、既存の殺虫剤に対して抵抗性を示す害虫に対しても効果を示す可能性がある。

具体的データ

図1 カイコJH受容体(BmMet1)とJH拮抗阻害剤NY52の結合予測モデル.,図2 JH拮抗阻害剤NY52、およびSF07の化学構造,図3 培養細胞での活性評価システムにおけるJH拮抗阻害剤NY52、およびSF07のJH拮抗阻害活性.,表1 SF07のカイコ幼虫に対する生物活性の評価.

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2019~2020年度
  • 研究担当者:古田賢次郎
  • 発表論文等:古田ら、特願2021-046116(2021年3月19日)