「ことゆたか」に難裂莢性を導入した大豆新品種「ことゆたかA1号」
要約
「ことゆたかA1号」は滋賀県の主力品種「ことゆたか」に難裂莢性を導入した品種で、農業および品質特性はほぼ「ことゆたか」と同じである。裂莢しにくいため自然裂莢や収穫時の収穫損失が少なく、実質的に多収となる。
- キーワード:ダイズ、難裂莢性、ことゆたか、DNAマーカー、加工適性
- 担当:次世代作物開発研究センター・畑作物研究領域・大豆育種ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-7449
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
「ことゆたか」は倒伏しにくく、青立ちの発生が少ない特性に加え、豆腐加工にも優れることなどから、滋賀県では「フクユタカ」に次ぐ主力品種になっており、同県産大豆のブランドとして位置付けられている。しかし、成熟後に莢がはじけやすいため、自然裂莢やコンバイン収穫時の収穫損失が多発し、大幅な収量低下が生じることから、生産現場から難裂莢性の付与が強く求められている。
そこで、「ことゆたか」に「ハヤヒカリ」由来の難裂莢性を導入することを目的に、DNAマーカー利用した連続戻し交配を行い、「ことゆたか」とほぼ同等の特性を有する難裂莢性品種を開発する。
成果の内容・特徴
- 「ことゆたかA1号」は、耐倒伏性で青立ちの発生が少ない高豆腐加工適性の「ことゆたか」に、「ハヤヒカリ」由来の難裂莢性をDNAマーカー選抜と5回の連続戻し交雑を組合せて育成した品種である。
- 草姿や耐病虫性などの栽培特性および品質特性は「ことゆたか」とほぼ同等であるが、成熟期は1~4日程度遅く、百粒重は同等からやや大きい(表1)。
- 裂莢性は"難"であり、成熟後の圃場における自然裂莢や室内での加熱試験による裂莢は「ことゆたか」に比べ少ない(図1、図2)。
- 子実収量(坪刈り)は「ことゆたか」と同等(表1)であり、刈遅れが生じた場合には、自然裂莢による脱粒やコンバイン収穫時の脱粒が明らかに少なく、収穫損失全体が20kg/10a程度少なくなるため(図3)、実質収量の向上が期待できる。
- 豆腐、味噌、煮豆の加工に適する(表1)。
普及のための参考情報
- 普及対象:生産者、大豆加工事業者。
- 普及予定地域・普及予定面積:滋賀県において「ことゆたか」から全面的に置き換え、「ことゆたか品種群」として流通することを想定しており、同県における普及見込み面積は1,800ha(2021年)である。栽培適地は関東南部~近畿地方。
- その他:難裂莢性をもつが、長期間の圃場放置は品質低下をもたらすので適期収穫に留意する。また、ダイズシストセンチュウ、黒根腐病等に対する抵抗性は不十分なので、連作を避け、発生履歴のある圃場へは作付けしない。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、委託プロ(業務・加工用)
- 研究期間:2001~2017年度
- 研究担当者:高橋浩司、高橋幹、南條洋平、山田哲也、湯本節三、菱沼亜衣、羽鹿牧太、平田香里、山田直弘、船附秀行、大木信彦、松永亮一、小巻克巳
- 発表論文等:
1)高橋ら「ことゆたかA1号」品種登録出願第32146号(2017年8月18日出願公表)
2)山田ら(2013)作物研報、14:13-22