多収・良質で中生熟期の業務・加工用水稲新品種「えみだわら」

要約

「えみだわら」は、温暖地東部では出穂期、成熟期ともに"中"の粳系統で、業務・加工用品種「やまだわら」よりも登熟期間が短い。玄米収量が高く、玄米品質に優れる。炊飯米は粘りが弱いため、業務・加工用としての利用が期待される。

  • キーワード:イネ、中生、多収、業務・加工用米
  • 担当:次世代作物開発研究センター・稲研究領域・稲育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8536
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

業務・加工用としての米消費がすでに全体の約3割を占めている現状をふまえると、実需者ニーズの高い業務・加工用米を生産することは、米需要の維持・拡大を図る上で重要である。2011年に育成した業務・加工用品種「やまだわら」は、暖地を中心に普及が始まっているが、温暖地東部では、登熟期間が長く成熟期が遅くなるため、普及が進んでいない。そこで、温暖地東部でも栽培しやすいように、「やまだわら」よりも登熟期間が短く成熟期の早い業務・加工用品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「えみだわら」は多収で良質な業務・加工用米系統の開発を目標として、良質・良食味品種「イクヒカリ」と業務・加工用の多収系統「和1289(後の「やまだわら」)」とのF1に、「和1289」を交配した後代より育成された粳系統である。
  • 育成地における「えみだわら」の出穂期、成熟期は"中"に属する。「やまだわら」よりも、出穂期は2日早く登熟期間が8日短いため、成熟期は10日早くなる(表1)。
  • 「やまだわら」と比べて、稈長は同程度で、穂長は1cm程度短く、穂数は明らかに多い。草型は"中間型"である(表1)。
  • 玄米収量は、「やまだわら」に対して、早植・標肥栽培で3%高く、73.5kg/aと多収である。千粒重は22.8gで「やまだわら」よりもやや大きい(表1)。
  • 耐倒伏性は「やまだわら」並の"強"、穂発芽性は「やまだわら」並の"やや易"である(表1)。
  • いもち病真性抵抗性遺伝子型は、Pibを持つと推定される。圃場抵抗性は、葉いもちは"やや弱"、穂いもちは不明である。白葉枯病抵抗性は"弱"である。縞葉枯病には罹病性である(表1)。
  • 玄米の外観品質は「やまだわら」より優れる。炊飯米は「コシヒカリ」よりも硬く、粘りが弱い(図1、図2)。

成果の活用面・留意点

  • 栽培適地は関東・北陸以西である。2019年度はJA全農みえ管内で約100haの作付けが見込まれる。
  • 粘りの弱い特徴を活かして、冷凍米飯等の業務・加工用としての利用が期待される。
  • 4-HPPD阻害型除草剤に感受性であるため、ベンゾビシクロン等の成分を含む除草剤は使用しない。
  • いもち病真性抵抗性遺伝子"Pib"を持つが、葉いもち圃場抵抗性は弱いため、侵害菌の発生に注意するとともに、発生が見られた時は防除を徹底する.
  • 縞葉枯病に罹病性なので、常発地での栽培は避ける。
  • JA全農との共同研究「業務用米・飼料用米に適した多収品種の開発」の成果である。

具体的データ

表1 「えみだわら」の特性概要;図1 「えみだわら」の食味評価;図2「えみだわら」の炊飯米の物理特性

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「先導プロ」)
  • 研究期間:2007~2017年度
  • 研究担当者:石井卓朗、佐藤宏之、後藤明俊、黒木慎、松原一樹、鈴木啓太郎、山口誠之、春原嘉弘、加藤浩、安東郁男、根本博、小林伸哉、平林秀介、竹内善信、常松浩史、太田久稔、前田英郎、池ヶ谷智仁、津田直人、田中淳一
  • 発表論文等:石井ら「えみだわら」品種登録出願第33054号(2018年4月20日)