国産ダイズ品種の染色体断片置換系統群

要約

国産ダイズ品種「エンレイ」の遺伝背景に様々なストレス耐性遺伝子を持つ品種「Peking」の染色体断片を導入した染色体断片置換系統群は、ストレス耐性遺伝子の特定だけでなく複雑な農業形質の遺伝解析にも利用できる有用な実験系統リソースである。

  • キーワード:CSSLs(染色体断片置換系統群)、QTL(量的形質遺伝子座)、SSRマーカー
  • 担当:次世代作物開発研究センター・畑作物研究領域・畑作物形質評価ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7930
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

染色体断片置換系統群(CSSLs)は、戻し交配により有用品種の染色体断片を取り込み、系統ごとに異なる断片が置換された系統群を指し、その差異が系統間の特性の差異として現れるため、複雑な遺伝様式の量的形質遺伝子座の特定など、イネでは非常に優れた実験系統リソースとして活用されている。CSSLsの開発には複数回の戻し交雑が必要であるが、ダイズは交配が難しいため、国産品種のCSSLsは開発されていない。そこで本研究では、ダイズシストセンチュウ抵抗性をはじめ様々な病虫害抵抗性および環境ストレス耐性遺伝子を持つ優れた遺伝資源である「Peking」の染色体断片を、国産優良品種「エンレイ」の遺伝背景に導入したCSSLsを開発する。

成果の内容・特徴

  • 「Peking」の全染色体を網羅するように選定された103系統のCSSLsは、「エンレイ」の染色体のどの部分が「Peking」の染色体断片に置換されているか320種類のSSRマーカーを用いて調べられており、注目する形質の系統間差異が見つかれば、即座に原因となる染色体領域の特定が可能である(図1)。
  • 開発したCSSLsを用いると、未知の開花期のQTLを安定して検出できることから(図2)、これまで解析が困難であった複雑な農業形質の遺伝解析に利用出来る。
  • 早晩性について見いだされた3種類の新規QTL(qDFF_Gm11、qDFF_Gm12、qDFF_Gm13)のうちqDFF_Gm11は、従来報告されている主要な開花期関連遺伝子とは異なり、成熟期間のみを短くする遺伝効果を持つ(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 開発したCSSLsは「Peking」が有する様々な環境ストレス耐性形質の評価、多数の遺伝子や小さな効果を持つ遺伝子が関与する農業形質等の形質評価に利用することにより、原因遺伝子の特定を加速化できる。
  • 系統間の特性の差異を比較する場合は、目的とする染色体領域以外にも「Peking」の染色体断片が部分的に残存していることに留意して解析する必要がある。
  • 3種類の新規QTL(qDFF_Gm11、qDFF_Gm12、qDFF_Gm13)を持つCSSLsは開花期や成熟期の変異を拡大する育種素材として利用可能であるとともに、近傍のDNAマーカーは開花期や成熟期の育種選抜に利用可能である。

具体的データ

図1 CSSLsの全染色体の遺伝子型;図2 エンレイと比較して開花まで日数に有意差が認められたCSSLsと主要な開花期関連遺伝子の有無;図3 Peking由来のqDFF_Gm11を持つCSSLの遺伝子型と成熟期間の差異

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2008~2017年度
  • 研究担当者:渡辺啓史、清水武彦、町田佳代、坪倉康隆、ZhengjunXia、山田哲也、羽鹿牧太、石本政男、片寄裕一、原田久也、加賀秋人
  • 発表論文等:Watanabe S. et al. (2018) DNA Res. 25(2):123-136