多収8品種の遺伝的多様性を保有する水稲多系交雑集団(JAM)

要約

水稲多系交雑集団(JAM)は、国内でもみ収量やバイオマス収量において多収を示す8品種に由来する。JAMは、単交配集団に比べて表現型の多様性を示し、複対立遺伝子の機能の違いを明らかにできる新たな育種研究素材としての活用が期待できる。

  • キーワード:水稲、多収、多系交雑集団、単交配集団、遺伝的多様性
  • 担当:次世代作物開発研究センター・基盤研究領域・育種法開発ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7135
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

育種に利用される選抜集団は、遺伝的多様性が大きいことが望まれる。しかし、一般的な選抜集団には両親2品種に由来する単交配集団が用いられるが、こうした集団においては1つの遺伝子座に座乗する対立遺伝子が最大でも2種類しかないことなどから遺伝的多様性が小さく、表現型の多様性が低いことが想定される。本研究では、選抜集団における遺伝的多様性の拡大を目的として、複数品種に由来する多系交雑集団の開発を行う。特に、近年では水稲において生産性に優れた多収品種の育成が注目されていることから、国内でもみ収量やバイオマス収量において多収を示す8品種を交配母本とした多系交雑集団を作出し、単交配集団との比較を行い、その特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本研究で開発した981系統の多型交雑集団(JAM)は、国内でもみ収量やバイオマス収量において多収を示す8品種「北陸193号」、「ミズホチカラ」、「水原258号」、「あきだわら」、「タカナリ」、「べこごのみ」、「ルリアオバ」および「タチアオバ」に由来する(図1)。
  • このうち、376系統のJAMは、16,345カ所の一塩基多型(SNP)によってゲノム識別が可能であり、親8品種のゲノムをほぼ均等に有する。
  • JAMにおける到穂日数と稈長は、4種類の単交配集団(RIL)と比較するとそれらの変異を包含した表現型分布を示し、単一のRILでは確保されない可能性のある表現型の多様性が期待できる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 981系統のJAMのうち、496系統については収量関連形質値(2017年度データ、農研機構谷和原圃場)、親8品種を含む544系統については遺伝子型情報がそれぞれ得られており、これらのデータは種子とともに活用可能である。
  • JAMを用いた遺伝解析により複対立遺伝子の作用力を識別できることから、JAMは複対立遺伝子の機能解明のための遺伝解析集団として利用できる。
  • 多収品種に由来するJAMは、育種素材として活用できる可能性がある。

具体的データ

図1 水稲多系交雑集団(JAM)と4種類の単交配集団(RIL)の開発;図2 JAMとRILの表現型分布の違い

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:小川大輔、山本英司、大谷寿一、菅野徳子、常松浩史、野々上慈徳、矢野昌裕、山本敏央、米丸淳一
  • 発表論文等:Ogawa D. et al. (2018) Sci. Rep. 8:4379, DOI:10.1038/s41598-018-22657-3