早生・多収でオオムギ縞萎縮病抵抗性の麦茶用大麦新品種「さちかぜ」
要約
六条皮麦「さちかぜ」は「すずかぜ」と比べて出穂期で8日、成熟期で5日程度早生で、整粒歩合が高く多収である。オオムギ縞萎縮ウイルスⅠ、Ⅱ、Ⅲ型に抵抗性を示す。麦茶加工適性は「すずかぜ」と同等で、焙煎麦の色、抽出液はやや濃い。
- キーワード:六条皮麦、早生、オオムギ縞萎縮病抵抗性、麦茶
- 担当:次世代作物開発研究センター・麦研究領域・小麦・大麦育種ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-8862
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
埼玉県において作付けされている六条大麦品種「すずかぜ」は、麦茶適性が高く実需者から高い評価を受けているが、オオムギ縞萎縮ウイルスⅠ型には強いもののⅡ型、Ⅲ型に弱く、また整粒歩合や収量が低い。近年は暖冬傾向等からオオムギ縞萎縮病の被害が拡大しつつあり、「すずかぜ」の生産量がより不安定となっていて、実需者の供給要望に応えられなくなってきている。そこで実需者が求める品質の麦茶原料を安定的に供給するために、麦茶適性があり安定した収量が見込める栽培性に優れた品種を育成する。
成果の内容・特徴
- 「さちかぜ」は渦性の六条皮麦である。麦茶適性があり、早生、多収でオオムギ縞萎縮病に抵抗性であることを育種目標とし、「関東皮86号(後の「カシマゴール」)」を母、「関東皮74号」を父として人工交配を行い、以降、集団育種法で、生育特性に加え、麦茶加工試験の評価を得て選抜してきたものである。
- 播性程度はⅠで、「すずかぜ」より出穂期で8日、成熟期で5日程度早い早生品種である(表1)。
- オオムギ縞萎縮ウイルスⅠ、Ⅱ、Ⅲ型に"極強"である(表1)。
- 「すずかぜ」と比べて稈長が10cm程度長い(表1)。
- 「すずかぜ」と比べて1割以上多収で、整粒歩合は「すずかぜ」より高い(表1)。
- 千粒重は「すずかぜ」よりやや重い(表1)。
- 焙煎事業者による試験焙煎の結果、加工適性は「すずかぜ」と同等である(データ略)。普及予定地域の生産物を原料に用いた焙煎麦、焙煎麦を粉砕した麦茶粉、麦茶抽出液の明るさ(L*)は「すずかぜ」よりやや低く(図1、図2)、いずれも色が濃い。
普及のための参考情報
- 普及対象:六条大麦生産者、麦茶焙煎事業者
- 普及予定地域・普及予定面積:埼玉県下の大麦生産地域において、「すずかぜ」代替品種として200haの作付けを図る。埼玉県では2019年3月に認定品種に採用されている。
- その他:既存の麦茶用品種に比べて長稈であり、倒伏を避けるため厚播や早播きを避ける。赤かび病に"やや弱"なので、防除基準に従い適期防除を徹底する。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2007~2018年度
- 研究担当者:柳澤貴司、青木恵美子、平将人、吉岡藤治、塔野岡卓司
- 発表論文等:柳澤ら「さちかぜ」品種登録出願公表第33421号(2018年12月25日)