餅等の硬化が遅く、いもち病、イネ縞葉枯病に強い水稲糯新品種「愛知糯126号」

要約

「愛知糯126号」は、愛知県と農研機構が共同で開発したコシヒカリ熟期のいもち病、イネ縞葉枯病に抵抗性を持つ水稲糯品種である。生餅や大福等の餅菓子、米粉ブレンドパン等の柔らかさ保持性に優れるため、業務加工用の糯品種として普及が期待される。

  • キーワード:イネ、糯、難硬化性、いもち病抵抗性、イネ縞葉枯病抵抗性
  • 担当:次世代作物開発研究センター・稲研究領域・米品質ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8951
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

大福等の餅菓子は、硬化を抑制するために、アミラーゼ等の添加物や糖類を使用することが多い。しかし、これらの使用は餅本来の風味を損ねるとの実需者の声や、添加物の少ない食品を購入したいとの消費者ニーズもある。そこで本研究では、このような要望に応えるべく、品種の特性として餅等の柔らかさ保持性に優れ、栽培特性も良好な糯品種をDNAマーカー選抜技術も活用して育成する。

成果の内容・特徴

  • 「愛知糯126号」は、餅等の柔らかさ保持性に優れ、いもち病およびイネ縞葉枯病に抵抗性の糯品種を目的として育成された。交配組み合わせは、母がF1(「中部糯130号」/F2(「愛知糯115号」*2/「旱不知D」))、父がF1(「中部糯130号」/「愛知糯115号」)である。
  • 育成地(愛知農総試山間農業研究所)における出穂期は「きぬはなもち」より6日、「モチミノリ」より8日早く、「ココノエモチ」より2日遅い。精玄米重は「きぬはなもち」よりやや少なく、「モチミノリ」、「ココノエモチ」と同等である。玄米外観品質は「きぬはなもち」、「モチミノリ」、「ココノエモチ」と同等である(表1)。
  • いもち病抵抗性遺伝子Pi39(t)とPb1 を持ち、葉いもちおよび穂いもちの圃場抵抗性は共に"極強"である。また、イネ縞葉枯病抵抗性遺伝子Stvb-iを保有し、イネ縞葉枯病に"抵抗性"である(表1)。
  • 「愛知糯126号」は、澱粉のアミロペクチン合成に働く枝付け酵素I機能欠損性遺伝子を「旱不知D」から受け継ぎ、同酵素の活性を欠くため、柔らかさ保持性の指標となるアミロペクチンの短鎖(重合度6~11)の比率が「ヒメノモチ」より高い(図1)。
  • 餅硬化性は、柔らかさで定評のある「はくちょうもち」、「ヒヨクモチ」、「滋賀羽二重糯」、「ヒメノモチ」よりも低い(図2)。
  • 「愛知糯126号」の米粉を10%ブレンドしたパン(ベーグル)は、「ヒヨクモチ」の米粉をブレンドしたパンよりも、経時的な硬化が緩やかである(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 「愛知糯126号」の特徴を活かすことで、酵素や糖類の添加を抑えつつ柔らかさ保持性に優れた餅菓子や、おこわ、米粉ブレンドパン等への利用が見込まれる。
  • 栽培適地は南東北から以南以西である。愛知県を中心に2019年度から約10ha、3ヶ年以上の計画生産を行い、2020年度から「愛知糯126号」の米粉を使用したパンの商品化を予定している。種子は、(株)大嶋農場(http://hyakusyoumai.shop-pro.jp)から購入可能である。
  • 高温条件下の登熟では、玄米外観品質の低下が見られるので、栽培適地、適作期の選択が重要である。
  • 一般的な糯品種と同様に、高温下での登熟では餅等の硬化が速くなるため、柔らかさを担保し得る栽培地、作期において生産することが望ましい。

具体的データ

表1 「愛知糯126号」の主要特性(愛知県農業総合試験場山間農業研究所、2015年~2017年の平均),図1 「愛知糯126号」と「ヒメノモチ」のアミロペクチン鎖長分布の比較(2016年産サンプル),図2 餅硬化性の比較(2015年産),図3 パン(ベーグル)の硬さの経時変化

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:梅本貴之、池ヶ谷智仁、中村充(愛知県)、池田彰弘(愛知県)、鈴木太郎(愛知県)、吉田朋史(愛知県)、加藤恭宏(愛知県)
  • 発表論文等:中村ら、品種登録出願公表第32953号(2018年9月19日)