ダイズべと病被害を軽減する抵抗性QTL

要約

第7、第18染色体の「タチナガハ」由来のダイズべと病抵抗性QTLとこれらの近傍マーカーは関東、東北地方のダイズ育種に利用できる。

  • キーワード:ダイズ、ダイズべと病抵抗性、QTL、選抜マーカー、枝豆
  • 担当:次世代作物開発研究センター・畑作物研究領域・畑作物形質評価ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7930
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

糸状菌であるダイズべと病菌は、全国でダイズ子実の小粒化を引き起こす一方、若い莢の内果皮を褐変させて枝豆の商品価値を低下させる。枝豆の主産地は関東~東北地方であるが、地域によってべと病菌のレースが異なることが示唆されており、有効な抵抗性遺伝子の同定と選抜マーカーの開発が求められている。本研究では、複数の組換え自殖系統群(RILs)を東北1か所、関東2か所で2ヶ年にわたって共通に見られるべと病抵抗性QTLを検出し、各QTLについて作成した組換え固定系統対あるいは戻し交配系統を関東および東北地方で評価し、抵抗性に関わるQTLを特定する。同時に、育種で利用できる選抜マーカーを得ることを目指す。

成果の内容・特徴

  • 5集団のRILsにおいて2ヶ年にわたり検出された6個のべと病抵抗性QTLのうち、第3および第7染色体の2個のQTLは複数の集団で共通しており、第7、第3、次いで第18染色体のQTLの寄与率が高く、効果が大きい。
  • 第3染色体のQTLは東北の試験地のみで効果を示したが、「納豆小粒」の遺伝背景に導入した第7、第18染色体の「タチナガハ」由来QTLは関東および東北の試験地における効果が実証され(図1)、関東、東北地方のダイズ育種に利用できる。
  • 第7染色体の「タチナガハ」由来QTLはダイズゲノム配列上の約5~8Mbの3.0Mbに、第18染色体のQTLは約48~56Mbの8.1Mbの領域に座乗している(図2)。第7染色体の「タチナガハ」由来QTLと連鎖するBARCSOYSSR_07_0282(以下、BSSR_17_0282と記載)、WGSP07_0070、BSSR_07_0312などのDNAマーカー、および第18染色体のQTLと連鎖するBSSR_18_1783、BSSR_18_1834などのDNAマーカーは、「タチナガハ」由来のべと病抵抗性の選抜マーカーである。
  • 第7、第18染色体の「タチナガハ」由来QTLはヘテロ型でも抵抗性を示すことから、優性の遺伝効果を有する。

成果の活用面・留意点

  • 第7、第18染色体の「タチナガハ」由来QTLの利用には、異なる品種背景における抵抗性の付与が検証されていないことに留意する必要がある。
  • マーカーの配列情報は、BARCSOYSSRはhttps://soybase.org/から、WGSPはhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbbs/68/2/68_17098/_article/-char/enのSupplemental Table.1から得ることができる。
  • 第3染色体のQTLについては、今後詳細なマッピングが必要である。

具体的データ

図1 関東、東北地方で抵抗性を付与できる第7、第18染色体のダイズべと病抵抗性QTLとその効果。系統対は、QTL領域以外の背景は共通で、QTL領域のみが異なる2系統のこと。,図2 関東、東北地方で抵抗性を付与できる第7、第18染色体のダイズべと病抵抗性QTLとDNAマーカーの位置

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:田口文緒、藤井健一朗、佐山貴司、平田香里、加藤信、菊池彰夫、髙橋浩司、岩橋雅夫(茨城県)、池田千亜紀(茨城県)、小菅一真(茨城県)、岡野克紀(茨城県)、早坂政寛(雪印種苗)、坪倉康隆(雪印種苗)、石本政男
  • 発表論文等:Taguchi-Shiobara et al. (2018) Theor Appl Genet. 132(4):959-968 https://doi.org/10.1007/s00122-018-3251-y