イネいもち病抵抗性遺伝子の識別アレイ

要約

96個の一塩基多型を利用して、10カ所のイネいもち病抵抗性遺伝子座上の合計24種類の遺伝子の有無を識別するアレイである。接種検定によらず簡便かつ正確に識別できる本アレイを利用することで、品種や系統におけるいもち病抵抗性の推定にかかる時間と労力を大幅に軽減できる。

  • キーワード:イネ、いもち病抵抗性、DNAマーカー、一塩基多型(SNP)、遺伝子識別
  • 担当:次世代作物開発研究センター・ゲノム育種推進室
  • 代表連絡先:029-838-6792
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネいもち病抵抗性遺伝子の有無は接種検定によって推定されるが、複数の抵抗性遺伝子を保持する場合などには、個々の遺伝子の識別が困難であることが多い。また、識別すべき遺伝子の数に応じ、菌株や植物体の準備を含めて最短でも31日、長い場合は135日もの時間を要する。そこで、我が国で品種登録時に必要とされるいもち病抵抗性遺伝子座を対象に、高い判別力を示すDNAマーカーを作成し、いもち病抵抗性の推定にかかる時間と労力を大幅に軽減する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 識別アレイは、10カ所のいもち病抵抗性遺伝子座上の合計24種類の遺伝子の有無を判定する(表1)。遺伝子座あたり6~20個、合計96個の一塩基多型(SNP)マーカーを調査し、各抵抗性遺伝子の基準品種との比較により、検体の有する抵抗性遺伝子を推定する。
  • 国内の水稲品種における識別結果は、既存の接種検定結果と概ね一致する。複数の抵抗性遺伝子を保持する飼料イネ品種においても、大半の遺伝子座において既存の接種検定結果と高い割合で一致する(表2)。
  • フリューダイム社EP1システムによって本アレイを解析すると、DNAの調製を含めて3.5日で結果が得られる。接種検定に比べて大幅に作業時間を短縮できる。
  • 各遺伝子について、アガロースゲル電気泳動で判別可能なDNAマーカーも開発済みのため、アレイでの識別結果をもとに必要なDNAマーカーを選定し、育種集団での多検体の解析に利用することもできる(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 品種登録に必要な接種検定の予備調査や交配親の有するいもち病抵抗性遺伝子の確認に有効である。
  • 本アレイによる分析は、次世代作物開発研究センターで共同研究または依頼分析として実施する。
  • アレイによる識別結果は現時点で、品種登録出願時のデータとして使用できない。
  • 親など系譜上の品種を含めて接種検定の実績がない品種では、アレイでの解析結果を接種検定によって確認することが望ましい。
  • 接種検定において他の遺伝子の影響を受けやすいPia座では、アレイでの識別結果と既存の接種検定結果との一致率が低い。
  • 本アレイでは新規の抵抗性遺伝子の識別はできない。
  • 必要に応じてアレイを構成するSNPマーカーを変更する場合がある。

具体的データ

表1 いもち病抵抗性遺伝子座と96個のSNPマーカーで識別できる遺伝子,図1 アガロースゲル電気泳動で識別できるDNAマーカーの例(Piz座),表2 飼料イネ品種におけるアレイでの識別結果と既存の接種検定結果との比較

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:福岡修一、北澤則之、正村純彦、水林達実、安藤露、永田和史、林長生、髙橋章、山内歌子
  • 発表論文等:Kitazawa N. et al. (2019) Breed. Sci. 69:68-83