コムギ全染色体の参照ゲノム配列情報

要約

農研機構などが参加した国際コンソーシアムによる、コムギが持つ21対の染色体のゲノム情報である。配列情報、遺伝子情報の利用が可能になり、異質6倍体であるコムギのゲノム育種研究の加速化が期待される。

  • キーワード:コムギ、参照ゲノム配列、染色体、次世代シーケンサー、遺伝子情報
  • 担当:次世代作物開発研究センター・基盤研究領域・育種法開発ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7007
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、ゲノム情報を活用した作物の育種技術が発展し、世界第2位の生産量を持つコムギでもその適用が望まれている。しかし、イネの約40倍のゲノムサイズを持ち、3つの祖先種に由来する同祖ゲノム(Aゲノム、Bゲノム、Dゲノム)を持つ6倍体のコムギでは、参照ゲノム配列情報が未整備であり、ゲノム情報の公開が期待されている。そこで、国際コムギゲノム解読コンソーシアム(The International Wheat Genome Sequencing Consortium;IWGSC)を結成し、国際共同プロジェクトとしてコムギ全染色体のゲノム配列の解読を行う。日本を含めた16カ国と1企業が、21対の染色体のゲノム解読を分担する(図1)。我が国からは、農研機構(旧農業生物資源研究所)、京都大学、横浜市立大学、日清製粉等が研究チームを組織して参加している。本研究では、IWGSCの一員としてコムギ6B染色体の解読を担当し、IWGSCによるコムギ全染色体の参照ゲノム配列情報の構築に貢献する。

成果の内容・特徴

  • 参照ゲノム配列(IWGSC RefSeq v1.0)は、コムギ遺伝学における標準品種「Chinese Spring」を材料として、全ゲノムおよび染色体毎のDNAについて次世代シーケンサーで塩基配列を解読したものである。
  • 解読した配列の統合と整列化により、コムギの推定ゲノムサイズ15.4Gb(154億塩基対)の94%に相当する14.5Gb(145億塩基対)の塩基配列が、21対の染色体上に位置づけられている(表1)。
  • この塩基配列と既知の転写産物やイネ科植物の遺伝子配列情報との比較から、107,891個の高信頼度の遺伝子情報を整備している(表1)。
  • 我が国の研究チームは6B染色体の塩基配列解読を担当し、染色体上の位置が明らかなBACクローンに由来する689Mb(6億8900万塩基対)の塩基配列情報を整備し、参照ゲノム配列の構築に貢献している(表2)。

成果の活用面・留意点

  • ゲノム配列情報や遺伝子情報は、フランス国立農学研究所(INRA)の「Wheat URGI」サイトからダウンロードできる。また、ゲノムブラウザや相同性検索システムが利用できる。
  • 6B染色体のゲノム解読の成果は、「Komugi GSP」ポータルサイトで公開されている。解読に使用したリソース情報、ゲノムブラウザ、遺伝子情報、相同性検索システムを公開し、配列情報の入手もできる。
  • 参照ゲノム配列情報は、6倍体であるコムギにおいて類似した同祖配列の識別、遺伝子やDNAマーカーなどの配列情報や位置情報の取得など、ゲノム育種の基盤構築において有用なツールである。

具体的データ

図1 コムギ染色体のゲノム解読の国際分担(日本は6B染色体を担当),表1 コムギ全ゲノムと同祖ゲノム毎のサイズと遺伝子数,表2 6B染色体のゲノム情報の整備,

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2011~2018年度
  • 研究担当者:小林史典、半田裕一、金森裕之、片桐敏、田中剛、呉健忠、那須田周平(京都大)
  • 発表論文等:International Wheat Genome Sequencing Consortium (IWGSC) (2018) Science 361(6403):eaar7191