生麺の色の経時劣化との強連鎖を解消した新規コムギ縞萎縮病抵抗性母本

要約

DNAマーカーを利用して、小麦品種「ゆめちから」由来のコムギ縞萎縮病抵抗性遺伝子領域と高活性型ポリフェノール酸化酵素遺伝子間の強連鎖を解消した系統である。この系統では生麺の色の経時劣化が抑制され、高品質なコムギ縞萎縮病抵抗性品種育成のための母本として有効である。

  • キーワード:母本、コムギ縞萎縮病、抵抗性、ポリフェノール酸化酵素、ゆめちから
  • 担当:次世代作物開発研究センター・麦研究領域・小麦・大麦育種ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7410
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

コムギ縞萎縮病はコムギ縞萎縮ウイルス(Wheat yellow mosaic virus: WYMV)によって引き起こされる重要病害のひとつである。小麦品種「ゆめちから」は2D染色体長腕に抵抗性遺伝子領域Q.Ymymを保有し、WYMVの複数の病原型に対して抵抗性を示すが、Q.Ymymは生麺の色の経時劣化に影響するポリフェノール酸化酵素(PPO)の高活性型遺伝子(Ppo-D1b)と強連鎖している。そのため、「ゆめちから」に由来するQ.Ymymの導入にはPpo-D1bが伴い、生麺の色の劣化が生じることが問題となっている。そこで、本研究ではPpo-D1bQ.Ymym領域間の強連鎖を解消した系統を選抜し、その形質を評価することにより、コムギ縞萎縮病抵抗性と高品質を併せ持つ品種の育成に資する。

成果の内容・特徴

  • Ppo-D1a/Q.Ymym系統は、Q.Ymym強連鎖マーカーの利用により、「ゆめちから」を1回親、「タマイズミ」を反復親としたBC4集団から選抜された、Ppo-D1bQ.Ymym領域間の強連鎖を解消した系統である。この系統は「タマイズミ」由来の低活性型Ppo-D1遺伝子(Ppo-D1a)と「ゆめちから」由来のQ.Ymymを持つ。(図1)。
  • Ppo-D1a/Q.Ymym系統はコムギ縞萎縮病発生圃場(WYMV-I型およびIII型)において抵抗性を示す(図2)。
  • Ppo-D1a/Q.Ymym系統ではPpo-D1b/Q.Ymym系統と比較して、種子のPPO活性が低い(図3)。
  • 作製した中華麺帯の色を分光色彩計で測定した場合、Ppo-D1a/Q.Ymym系統ではPpo-D1b/Q.Ymym系統と比較して、明るさ(L*値)と黄色み(b*値)の経時的な低下が有意に抑制されている。赤み(a*値)について安定した差は見られない。

成果の活用面・留意点

  • Ppo-D1a/Q.Ymym系統は生麺の色の経時劣化を伴うことなくQ.Ymymを導入するためのコムギ縞萎縮病抵抗性母本として活用できる。
  • Ppo-D1a/Q.Ymym系統を母本として使用する際にはその後代において、Kobayashi et al. (2020)でQ.Ymym内に設計された共優性マーカー、TNAC1216CDおよびTNAC3149CDPpo-D1遺伝子型判別マーカー(Wang et al. 2008、He et al. 2007)を組み合わせて使用することで、コムギ縞萎縮病抵抗性および低活性型PPOを持つ個体の選抜が可能である。特に、赤粒の品種を材料にする場合は、種皮元来の色素の影響でフェノール反応によるPPO活性の強弱の判定は難しいため、Ppo-D1遺伝子型判別マーカーを使用する必要がある。
  • 本研究では2D染色体上のPpo-D1にのみ着目しているが、PPO活性を評価する際には、もう一つの主動遺伝子であり、2A染色体に座乗するPpo-A1の遺伝子型についても確認する必要がある。本研究で使用した「タマイズミ」、Ppo-D1a/Q.Ymym系統、Ppo-D1b/Q.Ymym系統のPpo-A1遺伝子型はいずれも低活性型(Ppo-A1b)である。

具体的データ

図1 組換え個体のグラフ遺伝子型,図2  コムギ縞萎縮病抵抗性試験,図3 フェノール反応による種子の着色,図4 分光色彩計による中華麺帯の色相の経時的変化

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:小島久代、小林史典、石川吾郎、乙部千雅子、藤田雅也、中村俊樹
  • 発表論文等:小林・小島ら(2020)育種学研究、22(1):1-10