コムギの種皮色を簡便かつ明瞭に判別する方法
要約
フラバノールと反応して青色を呈する4-dimethylaminocinnamaldehyde(DMACA)を用いてコムギ種子を染色すると、赤粒コムギの種皮は青く染色されるが白粒コムギの種皮は染色されないため、環境要因やタンパク質含量等に影響されることなく、種皮色を簡便かつ明瞭に判別できる。
- キーワード:コムギ、種皮色、フラバノール、DMACA、青色
- 担当:次世代作物開発研究センター・麦研究領域・麦類形質評価ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7410
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
コムギは、種皮にフラボノイド由来の赤褐色色素を蓄積する赤粒コムギと、蓄積しない白粒コムギに分けられる。一般に白粒コムギは赤粒コムギより種子休眠が弱く穂発芽しやすいが、小麦粉の色相は赤粒コムギより優れるため実需者評価は高い。種皮色を決めるR(Red)座の原因遺伝子は、フラボノイド生合成酵素群の発現制御に関わる転写因子TaMYB10をコードする。異質6倍体のコムギでは、Aゲノム・Bゲノム・Dゲノムに由来する3つのTaMYB10タンパク質のうち、1つでも機能すれば種皮色は赤くなり、3つ全てが機能を失って初めて種皮色は白くなる。すでにTamyb10の遺伝子型を識別するDNAマーカーは開発されているが、識別には最低でも2回PCR反応を行う必要があるため煩雑で、既知の遺伝子変異しか識別できないという弱点がある。一方、降雨や高温などの環境要因や種子のタンパク質含量、硬軟質性などが影響して種皮色の濃淡は変化するため、完熟種子の種皮色を目視で正確に判別することは熟練者以外には難しい。そこで本研究では、フラバノールと反応して青色を呈色するDMACAを用いてコムギ種子を染色し、より簡便かつ明瞭に種皮色を判別することを目的とする。
成果の内容・特徴
- 検出試薬のDMACAはフラバノールと反応して青色を呈するため、果皮や種皮、アリューロン層に含まれるアントシアニンやクロロフィルに影響されることなく、赤粒コムギの種皮に蓄積したフラバノールを目視で確認できる(図1)。
- ガラスバイアルや有機溶剤耐性のマイクロプレートに、コムギ種子をそのまま、または、切断して入れる。次に、種子が十分浸漬する量のDMACA染色試薬を加えて室温で静置し、種皮色を顕微鏡で観察する(図2)。コントロールとして「農林61号」等の赤粒コムギや「タマイズミ」等の白粒コムギの種子を供試材料と同時に染色し、赤粒コムギの種皮は青く染色されるが白粒コムギの種皮は染色されないことを確認する。
- 未熟種子をDMACA染色すると、赤粒コムギでは開花後10日目以降の種子が青く染色され、特に胚近傍が濃く染色される(図3)。果皮を取り除くと、10日目~15日目の種子では溶液が青くなるが、以降は溶液の色調に変化はない。一方、白粒コムギでは種子は染色されず、溶液の色調にも変化はない。このように、DMACA染色では未熟種子を用いても種皮色を判別できる。
成果の活用面・留意点
- DMACA染色では、アルカリ染色等の従来法より明瞭に白粒コムギを判別することができる。
- 種皮は母本の組織の一部なので、種皮色は次世代である種子胚の遺伝子型ではなく、母本の遺伝子型で決まることに留意する。
- DMACA染色は、プロアントシアニジンフリー遺伝子を有するオオムギの判別にも利用できる。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
- 研究期間:2013~2019年度
- 研究担当者:蝶野真喜子、神山紀子、松中仁
- 発表論文等:Kohyama N. et al. (2017) Biosci. Biotech. Biochem. 81:2112-2118