高アミロース米の米粉から調製できる飲み込みやすい物性のライスゼリー

要約

高アミロース米の精米粉に10倍量の水を加え、鍋で混ぜながら加熱して得られる糊を冷却すると、飲み込みやすい物性のゼリーになる。この高アミロース米粉ゼリー(ライスゼリーTM)は嚥下困難者用食品に相当する物性を示すため嚥下食としての利用が期待できる。

  • キーワード:高アミロース米、米粉、ゼリー、嚥下食
  • 担当:次世代作物開発研究センター・稲研究領域・米品質ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7441
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

高アミロース米は炊飯すると粘りがなく硬いが、その特性を利用して麺やクッキーなどに使用されている。米粉に水を加えて加熱撹拌することで得られる糊を冷却すると、米粉の濃度が約25%以上の場合、団子や外郎のように流動性を失い固まることが知られている。日本では高齢化の進行により噛むことや飲み込むことに支障のある嚥下困難者の増加が見込まれていることから、軟らかくかつ付着性の低いゼリー状の物性を示す嚥下食の開発が求められている。高アミロース米の糊は通常の米よりも硬く粘りがないことから、糊の濃度を低くすることでゼリー状の物性になることが期待できる。
本研究では高アミロース米の米粉を材料として、家庭でも簡便な方法で調理できるゼリー状の米粉食品の調製方法を開発する。また、ゼリーの物性を測定することにより、嚥下食としての利用可能性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 日本で育成された水稲品種のうち、ヨウ素呈色法で測定した見かけのアミロース含有率が約25%以上の高アミロース米は、米粉に10倍もしくは15倍水を加えて混ぜながら95°C以上に加熱し、糊状にしてから冷蔵すると、付着性の低いゼリーになる。一方、中アミロース米品種ではべとついた餡状や流動性を示す糊状となる(表1、図1)。
  • 消費者庁の定める嚥下困難者用食品の許可基準では、一定条件で測定した硬さ・付着性・凝集性の数値が定められている。高アミロース米粉ゼリーの物性を測定すると、加水量10倍で調製した場合に嚥下困難者用食品の許可基準IIに相当する物性を示すが、加水量を減らすと基準外の硬さになり、加水量を増やすと軟らかくなる(表2)。
  • 高アミロース米粉ゼリーは寒天のように口腔内でばらけることはなく滑らかに飲み込むことができる。60代以上の方を対象に10倍加水で調製した米粉ゼリーの試食では、8割以上の人が飲み込みやすいとの回答である(図2)。
  • 一般家庭ではフライパンや鍋に市販の高アミロース米粉と米粉の10倍量の水を入れ、木べらなどで混ぜながら火にかけて糊状にし、冷蔵することでゼリーを調製できる。出来上がり重量の0.3%程度の塩を加えることにより粥ゼリーの加工ができ、米粉と等量の砂糖を添加することによりゼリー菓子に加工できる。

成果の活用面・留意点

  • アミロース含有率は栽培方法や年度によって変動する。また、製粉方法によってゼリーの物性が変化する可能性があるため、ゼリーの物性は加水量の変更により調節する必要がある。
  • 嚥下能には個人差があるため、嚥下困難者への適応については専門医の指導に従う必要がある。
  • 高アミロース米粉ゼリーは冷蔵保存した場合、3日間経過しても物性に有意な変化はなく離水も認められないが、冷凍するとスポンジ状になり離水するため、冷凍には適さない。
  • 高アミロース米粉ゼリーは特別用途食品として消費者庁長官の許可を受けてはいない。表示の許可にあたっては、規格または要件への適合性について国の審査を受ける必要がある。

具体的データ

表1 供試した水稲品種と冷蔵した米粉糊の性状,表2 加水量による米粉ゼリー物性の違いと嚥下困難者用食品基準※との対応

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:芦田かなえ、幸谷かおり、梅本貴之
  • 発表論文等:
    • 芦田ら(2019)日本食品科学工学会誌、66:290-298
    • 「ライスゼリー」商願2020-024066(2020年3月5日)