普通ソバ自家和合性系統は花粉媒介昆虫が不足する環境でも結実不良になりにくい
要約
普通ソバは虫媒性の自家不和合性であるため、花粉媒介昆虫が不足すると結実不良になる。一方自家和合性系統は花粉媒介昆虫の有無にかかわらず結実不良になりにくい。自家和合性F1系統も結実不良になりにくく、さらに自家和合性系統よりも収量性に優れる。
- キーワード:普通ソバ、自家和合性、結実不良、収量性、花粉媒介昆虫
- 担当:次世代作物開発研究センター・放射線育種場
- 代表連絡先:電話 029-838-8393
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
普通ソバの収量は他の主要作物と比較して低いことに加えて栽培環境による変動も大きいため安定多収は重要な課題である。普通ソバは異形花型(長花柱花・短花柱花)の虫媒性の他殖性植物で自家不和合性を有するため、花粉媒介昆虫の有無が受精・結実に影響する。したがって自家和合性(自殖性)の導入により収量の安定性が期待される。近年、普通ソバの近縁種から自家和合性(等長柱花)の導入による品種や有望系統の育成が進められている。しかしながら花粉媒介昆虫の有無と収量の安定性についての検証は不十分である。
そこで、本研究は花粉媒介昆虫(ハエ)の有無による収量への影響を自家和合性系統「IH3」と自家和合性F1系統「IP2/IH3」および自家不和合性の主要品種である「キタワセソバ」を用いて解明する。
成果の内容・特徴
- 通常栽培における自家和合性F1系統「IP2/IH3」の子実重は雑種強勢により両親である自家和合性系統「IH3」や長花柱花系統「IP2」よりも子実重は高く、「キタワセソバ」と同程度である(表1)。
- 「IH3」と「IP2/IH3」の花型は自殖できる等長柱花が大部分を占める。一方、自家不和合性品種の「キタワセソバ」は自家不和合性の長花柱花と短花柱花がほぼ1:1の割合である(図1)。
- 閉鎖系の子実重はハエ無の「キタワセソバ」が低い値を示したが、自家和合性である「IH3」と「IP2/IH3」はハエの有無による子実重の変動は小さい(図2)。
- 閉鎖系での「キタワセソバ」の受精率は「IH3」と「IP2/IH3」よりも低く、ハエ無により受精率はさらに低くなる(図2)。
- 閉鎖系においても「IP2/IH3」は「IH3」よりも子実重が同等かやや大きい傾向にある(図2)。
成果の活用面・留意点
- 本試験は圃場に網枠を設置して虫等の出入りを遮断して、花粉媒介昆虫としてハエを利用して実施した閉鎖系の試験である(図3)。
- 花粉媒介昆虫が不安定な開放系の環境下でも同様の効果が得られるか検証の必要がある。
- 自家和合性は普通ソバの育種に活用されており、中間母本は育成されているが、自家和合性の実用品種は育成されていない。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012~2019年度
- 研究担当者:森下敏和、六笠裕治、鈴木達郎、笠島真也(東京農大)
- 発表論文等:
- Kasajima et al. (2017) Plant Prod. Sci. 20:384-388
- Kasajima et al. (2018) Buckwheat Composition, Production and Use pp.31-41 Nova Science Publishers, Inc., NY., USA