水稲品種「オオナリ」における"中"程度の脱粒性を示す突然変異遺伝子Sh13

要約

脱粒性"易"の多収水稲品種「タカナリ」の種子にガンマ線照射して育成された脱粒性"中"の品種「オオナリ」の小枝梗は張力ではなく曲げ応力の向上に特徴がある。この"中"程度の脱粒性は新規遺伝子座Sh13に支配される。Osa-miR172d遺伝子がSh13の有力な候補と考えられる。

  • キーワード:ガンマ線、突然変異、水稲、脱粒性
  • 担当:次世代作物開発研究センター・放射線育種場
  • 代表連絡先:電話 029-838-7930
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

脱粒性は、収穫損失や収穫機械の作業効率に影響する重要な形質である。イネにおける"難"脱粒性に比べ、"中"または"やや難"脱粒性は、収穫機械・人の労力にかかる負荷を減らす効果がある一方で、"易"になると収穫時の損失が増える。これまでにも脱粒性に関与する遺伝子はいくつかが単離されているが、脱粒性"中"のメカニズムはほとんど不明である。ガンマ線照射により作出した突然変異品種「オオナリ」は、"中"程度の脱粒性を示し、脱粒性"易"の原品種「タカナリ」に比べ、収穫時の収量損失が少ないため、粗玄米収量は約7%多収となる。そこで本研究では、この収量損失の軽減、作業効率の向上及び収穫機械のエネルギー消費の削減に寄与する可能性のある、"中"程度の脱粒性発現に関与する遺伝的機構を解明する。

成果の内容・特徴

  • 成熟期の「オオナリ」と「タカナリ」には、一般に用いられる脱粒性程度の指標としての張力に関しては差がないが、曲げ応力と小枝梗折れ率には明瞭な差があり、脱粒性"易"の「カサラス」や「タカナリ」と脱粒性"難"の「日本晴」との中間である(図1)。
  • バルクシークエンシング解析法により、第2染色体上の変異TO20(「オオナリ」ゲノム上の変異のID番号)は、この"中"程度の脱粒性の遺伝的要因と連鎖する(図2)。この遺伝子座をSh13と命名する。
  • 「オオナリ」のTO20の近傍には、脱粒性遺伝子を制御するOsa-miR172d遺伝子を含む6.3kbpの重複変異TO21があり(図3)、TO20の一塩基置換変異よりもTO21の重複変異の有無の方が脱粒性の程度と関係する(表1)。Osa-miR172dSh13の有力な候補と考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 「オオナリ」との交配により、他のイネ品種の脱粒性を改良する場合、開発されている遺伝子座Sh13のDNAマーカーを利用できる。

具体的データ

図1 成熟期における異なる品種間の脱粒性特性の比較,図2 バルクシークエンシング法による「オオナリ」の脱粒性

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:
    李鋒、沼寿隆、原奈穂、千徳直樹、石井卓朗、福田善通(国際農研)、清水明美、西村宜之、加藤浩
  • 発表論文等:Li F. et al. (2019) Mol. Breed. 39:36 doi:10.1007/s11032-019-0941-3