ガンマ線と炭素イオンビーム照射で誘発されたゲノム変異の特性の比較

要約

イネ乾燥種子へのガンマ線照射および炭素イオンビーム照射により作出した変異体(M5世代)の全ゲノム上の変異の特性を比較すると、前者は後者より変異総数が多く、ゲノム構造の変異の割合が少ない。

  • キーワード:ガンマ線、イオンビーム、突然変異、次世代シーケンス、イネ
  • 担当:次世代作物開発研究センター・放射線育種場
  • 代表連絡先:電話 029-838-7930
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ガンマ線は植物の突然変異育種に最も広く使われている変異原であるが、照射によるDNAレベルの変異の特性については、まだ十分に明らかにされていない。イオンビームは近年遺伝育種学の分野で注目されており、次世代シークエンサーなどの先端技術を用いたイオンビーム突然変異の分子遺伝学研究が急速に進展している。そこで、ガンマ線照射と炭素イオンビーム照射によって得られたイネ品種「ひとめぼれ」の形態形質の突然変異体(M5世代)それぞれ7系統の全ゲノムシークエンス解析により、ガンマ線と炭素イオンビーム照射により誘発された変異の特性の違いを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ガンマ線照射により作出した変異体の1系統あたりの一塩基置換数と変異の総数は、炭素イオンビーム照射のものより有意に多い。ゲノム構造変異の割合は、炭素イオンビーム照射の方が有意に高い(表1)。ただし、ガンマ線と炭素イオンビーム照射の効果では、化学変異原処理に比べると、変異数が少ないということが類似している。
  • トランジションとトランスバージョンの内A/T→C/Gの変異率(図1)及び一塩基挿入と4塩基以内の欠失の変異率(図2)は、ガンマ線照射の方が炭素イオンビーム照射より有意に高い。
  • 小さい変異(一塩基置換や100 bp未満の挿入と欠失)による変異した1系統あたりの遺伝子の数は、ガンマ線照射は炭素イオンビーム照射より有意に多い。炭素イオンビーム照射により作出した変異体のゲノム構造変異各領域に多数の遺伝子が含まれるため、1系統あたりに変異した遺伝子の総数では有意な差は認められない(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で用いた変異体は生物効果(生存率)が同じであるガンマ線照射(250Gy,10Gy/h)と220 MeV炭素イオンビーム照射(LET107 keV/μm,30Gy) により得られたものである。
  • 突然変異育種の変異原としてガンマ線とイオンビームを選択する際の参考となる。
  • ゲノム構造変異は多数の遺伝子の機能または発現の影響をもたらす。即ち、ターゲット形質以外に同時に望ましくない形質、例えば不稔や生育不良も出る可能性がある。このため、種子繁殖性作物の突然変異育種には、ガンマ線照射に比べ、炭素イオンビーム照射はゲノム構造変異の割合が多く誘発されることに注意する。
  • イネの種子照射の事例であり、他の植物に対する照射については今後検討の余地がある。

具体的データ

表1 ガンマ線と炭素イオンビーム照射によって誘発された全ゲノム上の変異の数,図1 ガンマ線と炭素イオンビーム照射に誘発された各種類の一塩基置換の変異率,図2 ガンマ線と炭素イオンビーム照射に誘発された異なるサイズの挿入と欠失の変異率,図3 ガンマ線と炭素イオンビーム照射により作出した変異体の1系統あたり変異遺伝子数

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:李鋒、清水明美、堤伸浩(東大)、西尾剛(東北大)、森下敏和、加藤浩
  • 発表論文等:Li F. et al. (2019) G3 (Bethesda) 9:3743-3751