混入米検出にも利用可能な長鎖欠失多型を発見する新規塩基配列解析ソフトウェア

要約

2種類の新たなアルゴリズムに基づき次世代シーケンサーで得た配列から多型を正確かつ迅速に検出するソフトウェアである。他では困難な長い欠失多型の検出、あるいは2種配列の直接比較ができ、検出された品種特異的な欠失変異を用いた混入米の検出など幅広く利用できる。

  • キーワード:塩基配列多型、突然変異、NGS、次世代シーケンサー、混入検出
  • 担当:次世代作物開発研究センター・ゲノム育種推進室
  • 代表連絡先:電話 029-838-7135
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

次世代シーケンサーは幅広い研究分野で活用されるようになったが、既存技術では、大きな欠失など構造変異の検出、あるいは参照配列が整備されていない対象に利用できる有効な解析方法がない。そこで、これらの目的で利用できるアルゴリズムを考案し、利用可能なソフトウェアを開発する。また、その実施例として、主要種子法廃止後、流通段階で混入の確認が必要となった水稲において、開発ソフトウェアを用いて、広く普及する品種の中で、特定の品種にのみ存在する欠失変異を探索し、ごく微量の他品種の混入を検出する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • Polymorphic Edge Detection(PED)は、次世代シーケンサーで得た配列をk-mer法、あるいは双方向整列法の2種類のアルゴリズムで解析し、多型を正確かつ迅速に検出できるソフトウェアである。Linux等のUnix系のOSで動作する。従来から多型検出に用いられている解析ソフトウェアに比べて正確かつ高速に処理でき、CPU、メモリ等の消費が少ない。
  • k-mer法は対象となる2つの次世代シーケンサーの配列を直接比較して多型検出を行う(図1)。多型検出に参照配列を必要としないので、参照配列が整備されていない作物の多型解析に利用できる。双方向整列法は、塩基配列多型のキワ(エッジ)に着目して効率よく多型を検出する。塩基の置換変異(SNP)と共に、挿入、欠失、逆位、転座等の構造変異も効率よく正確に検出できる。
  • 複数の品種を双方向整列法で解析することで特定の品種に特異的、かつ大きな欠失を検出できる(図2)。従来法では、参照ゲノムに対して次世代シーケンサーでの解析で得た100bp程度の配列を位置づけるため、多くの場合、その配列より長い欠失変異を検出できない。一方、双方向整列法では、次世代シーケンサーで解析した配列に対して、参照ゲノム配列を両端から整列して現れた欠失の境界を検出するため、非常に大きな欠失、逆位、あるいは転座であっても正確に検出できる。
  • 双方向整列法によって、ある品種に特異的な欠失を検索し、別の品種で増幅産物が得られるようなプライマーを設計しPCRを行う場合、目的の品種に混入がない場合はDNA断片が増幅されないが、僅かでも他の品種が混入しているとDNA断片が増幅されるので、高感度に混入の確認ができる(図3)。解析した24品種の中で「コシヒカリ」と「ササニシキ」に本欠失が存在するため、「コシヒカリ」(レーン2)と「ササニシキ」(レーン12)で増幅断片が得られない。このため、「ササニシキ」以外の22品種に対する「コシヒカリ」への混入の検出が可能である。図4は1~2%の混入の検出が可能なことを示している。

成果の活用面・留意点

  • PEDソフトウェアは、作物育種のみならず、遺伝病原因遺伝子の検出および診断、血縁関係の判定、同一人物での正常組織に対する癌組織での変異の検出、遺伝子編集やiPS細胞等の検査、湖沼や土壌中の細菌叢に対するメタゲノム解析、検出された多型を用いた系統樹作成および進化研究等、多型検出が必要とされる様々な分野で応用できる基本技術であり、すぐに入手・利用可能な状態で公開されている(公開サイト https://github.com/akiomiyao/ped)。
  • PEDソフトウェアで欠失が検出できれば、米以外の作物、野菜、果物等、DNAが取得可能な食品の混入の検査に応用できる。
  • 混入検出技術では、対象とする欠失変異を共有する品種の混入は検出できないので注意が必要である。

具体的データ

図1 k-mer法による多型検出の流れ,図2 双方向整列法による欠失の検出のしくみ,図3 様々な品種でのPCR増幅断片の電気泳動,図4 混入の検出限界

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:宮尾安藝雄、清宮健愉、飯田恵子
  • 発表論文等:
    • Miyao A. et al. (2019) BMC Bioinformatics 20:362
      doi.org/10.1186/s12859-019-2955-6
    • 宮尾、特願 (2019年1月24日)
    • 宮尾 (2017) 職務作成プログラム「多型検出プログラム」、機構-V01
    • 宮尾 (2017) 職務作成プログラム「挿入・欠失・逆位・転座検出プログラム」、機構V-02