出穂後積算気温による多収・良食味米品種の収穫適期の判定

要約

多収と高品質を両立することが可能な収穫適期の範囲を出穂後積算気温であらわすと、「あきだらわら」では1115-1393°C・日、「やまだわら」では1247-1441°C・日、「とよめき」では1171-1480°C・日である。

  • キーワード:イネ、多収・良食味米品種、収穫適期、出穂後積算気温
  • 担当:次世代作物開発研究センター・稲研究領域・稲栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、良食味と多収性を兼ね備えた中食・外食向けの業務・加工用米の需要が増加しており、「あきだわら」、「やまだわら」、「とよめき」が農研機構で育成されている。これらの品種の普及にあたり、生産者からは、多収で高品質な米生産が可能となる栽培指針策定が求められている。その中でも刈り取り適期(以下収穫適期)の判定は、水稲生産にとって重要な栽培技術の1つである。これらの多収品種は、m2あたり籾数が4万粒を超えるため、籾数が3万粒程度の「コシヒカリ」等の従来の主食用品種と登熟特性が異なり、収穫適期の判定が難しいとされる。そこで、収量700kg/10a以上の多収となる条件で栽培した場合の3品種の出穂後の整粒歩合、籾含水率、登熟歩合の推移を明らかにし、これらの推移と出穂後の日平均気温を積算した値(以下、出穂後積算気温)の関係を解析することで、多収と高品質を両立することが可能な収穫適期を決定する。

成果の内容・特徴

  • 整粒歩合70%以上が1等米の基準であり、これを高品質米とする。また、コンバイン収穫の収穫開始籾水分目安は25%以下とされている。これらの条件を満たす出穂後積算気温の範囲をそれぞれの回帰式から求めると、「あきだわら」では1115-1393°C・日、「やまだわら」では1247-1441°C・日、「とよめき」では1171-1480°C・日である(図1)。またこの期間以降、登熟歩合はほとんど増加せず、登熟はほぼ完了しているため、収量は十分に確保される。

成果の活用面・留意点

  • 「コシヒカリ」の収穫適期の指標である出穂後積算気温1000-1050°C・日と多収・良食味米品種の収穫適期の出穂後積算気温の差をもとにした、作付け計画の立案や適期収穫による品質安定化に有効な知見となる。
  • 本成果は茨城県つくばみらい市で得られたデータを基にしている。収穫適期は、気象や土壌条件に影響を受けるため、生産現場に適用する場合は地域の特性に応じた適正化が必要である。
  • 気象条件によっては、倒伏や整粒歩合の低下がおこるため、収穫適期に達した後はなるべく早期に収穫することが望ましい。そのため、農研機構作成の各品種の栽培マニュアルでは、収穫適期の最大値を小さくし、50°C・日単位の簡易な数値で示してある。
  • 収穫適期の範囲は、総窒素施肥量が12kg/10a、坪刈りの精玄米収量が約800kg/10a、籾数が4.3~5.2万粒/m2の条件で得られたものである。

具体的データ

図1 登熟歩合、整粒歩合、籾含水率の推移

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(業務・加工用)
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:荒井裕見子、岡村昌樹、向山雄大、小林伸哉、荻原均、吉田ひろえ、近藤始彦
  • 発表論文等:荒井ら(2020)日作紀、89:102-109