蒸煮大豆(煮豆)硬さの判定に有効なDNAマーカー

要約

蒸煮大豆の硬さに影響を及ぼすペクチンメチルエステラーゼ(PME)遺伝子の多型判別法である。PME遺伝子の1塩基多型もしくは1塩基欠失を検出するDNAマーカーを用いることで、蒸煮大豆が柔らかい品種・系統を選抜することが出来る。

  • キーワード:蒸煮大豆、煮豆、破断応力、DNAマーカー、ARMS法
  • 担当:次世代作物開発研究センター・畑作物研究領域・大豆育種ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

蒸煮大豆の硬さは煮豆、納豆、味噌、醤油等の大豆加工食品の品質にとって重要な形質であり、軟らかい方が実需者から好まれる。蒸煮大豆の硬さにはGlyma.03G028900(Glyma03g03360)遺伝子がコードするペクチンメチルエステラーゼ(PME)の活性が影響し、この遺伝子の品種間でのDNA配列の違いが蒸煮大豆硬さに関係することがわかっている。そこで蒸煮大豆の硬さを簡易かつ迅速に判定する手法確立のため、Glyma.03G028900の多型を検出するamplification refractory mutation system-polymerase chain reaction (ARMS-PCR) 用DNAプライマーを設計し、国産大豆21品種や組換え近交系(RIL)等についてARMS法による評価の有効性を検討する。

成果の内容・特徴

  • 国内品種に見いだされたGlyma.03G028900に関する4つのDNA多型に基づき、品種はA、A ́、 B、B ́タイプの4群に分類され 、A、もしくはA ́タイプはPME活性型、B、もしくはB ́ タイプはそれぞれ1塩基置換、1塩基欠失があり、PME非活性型である。PME非活性型の蒸煮大豆は柔らかくなる(作物研究所2015年研究成果情報「ダイズペクチンメチルエステラーゼは蒸煮大豆の硬さに関与する」)。表1に示した4つのプライマーを用いたARMS法をそれぞれ行うことにより、PME非活性型であるBもしくはB ́タイプを同定することができる(図1)。
  • 表1のBタイプ検出用プライマーセットを用いて図2で示すPCRを行うことで、Bタイプの品種・系統からは143 bpの特異的産物が増幅され、B ́タイプ検出用プライマーセットを用いてPCRを行うことで、B ́タイプの品種・系統からは271 bpの特異的産物が増幅される。これら特異的産物を明確に検出できる手法(3%アガロースゲルを用いたDNA電気泳動等)を用いることで、PME活性型、非活性型が判定できる。
  • 上記の方法で判別した2群間での、蒸煮大豆の硬さ(煮豆破断応力)は有意に異なり(p<0.001)、本方法によって蒸煮大豆の硬さの判別が可能である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 図2のPCR反応条件等は1例である。使用機器等が異なる場合、あるいは期待されるDNA多型を検出できない場合はアニーリング温度(PCR反応の63°C)等の変更を検討することが望ましい。また、一般的にARMS法ではプルーフリーディング活性を持つ酵素は使用できない。
  • AタイプとA ́タイプそれぞれの判別はできないが、それ以外のタイプ間ではヘテロ型も検出可能である。

具体的データ

表1 BタイプおよびB ́タイプ検出用プライマーセット,図1 ARMS法によるPME非活性型の判別,図2 PCR反応液および反応条件詳細,図3 「ふくいぶき」と「里のほほえみ」RILのGlyma.03G028900遺伝子型別の煮豆破断応力

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2014~2020年度
  • 研究担当者:戸田恭子、加藤信、平田香里、菊池彰夫、二瓶由美、羽鹿牧太
  • 発表論文等:Toda K. et al. (2020) Breed. Sci. 70:487-493