カドミウム低吸収性の多収・良食味米品種「あきだわら環1号」、「ほしじるし環1号」

要約

「あきだわら環1号」および「ほしじるし環1号」は、やや晩生の多収・良食味米品種「あきだわら」および「ほしじるし」のカドミウム(Cd)低吸収性同質遺伝子系統である。両品種により、Cd低吸収性品種の適応地域の拡大が期待できる。

  • キーワード:イネ、カドミウム低吸収性、同質遺伝子系統、あきだわら、ほしじるし
  • 担当:次世代作物開発研究センター・稲研究領域・稲育種ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カドミウム(Cd)はごく微量でも長年にわたって摂取すると健康被害をもたらすことが知られており、リスクを下げるためにはCd蓄積が少ない品種が求められている。2015年に品種登録されたCd低吸収性品種「コシヒカリ環1号」は、Cdを含む土壌で栽培してもコメ中のCd濃度が非常に低く、Cd摂取の低減に寄与することが期待されている。しかしながら、「コシヒカリ」の栽培面積は全国の約3分の1(約45万ha)に過ぎないため、他の主要な品種にCd低吸収性を付与し、より広範な地域でのCd低吸収性品種の普及を進めることが必要である。多収・良食味米品種「あきだわら」(2008年育成)および「ほしじるし」(2010年育成)は、それぞれ東北から九州の20県および関東東海4県で産地品種銘柄に指定され、農作物検査実績から推定した普及面積は約2,500haおよび1,200haである。
そこで、「あきだわら」および「ほしじるし」のCd低吸収性同質遺伝子系統を開発する。

成果の内容・特徴

  • 「あきだわら環1号」および「ほしじるし環1号」は、Cd低吸収性の「コシヒカリ環1号」に、「あきだわら」および「ほしじるし」を反復親としてそれぞれ3回戻し交配した後代から育成された、「あきだわら」および「ほしじるし」のCd低吸収性同質遺伝子系統である。
  • 「あきだわら環1号」および「ほしじるし環1号」のCd吸収性は「コシヒカリ環1号」並の"極低"である(図1)。
  • 「あきだわら環1号」および「ほしじるし環1号」の出穂期、成熟期は"やや晩"であり、「コシヒカリ」の"やや早"より遅い(表1)。その他主要な特性は概ね「あきだわら」および「ほしじるし」並だが、玄米千粒重は「あきだわら」および「ほしじるし」に比べてやや軽い。

成果の活用面・留意点

  • 「あきだわら環1号」および「ほしじるし環1号」が利用されることにより、Cdの基準超過米の発生防止および食品由来のCd摂取量の低減が期待される。
  • 両品種の栽培適地は反復親品種と同じ関東・北陸以西である。両品種はいもち病に弱く耐倒伏性も十分でないため、極端な多肥は避け、いもち病の防除を行う。また、「あきだわら環1号」は縞葉枯病に罹病性なので、常発地での栽培は避ける。
  • 両品種はマンガンの吸収も少ないため、特に砂質等の地力の低い圃場ではごま葉枯病の発生に注意を要する。
  • 「あきだわら環1号」の栽培にあたっては、「あきだわら」多収・良食味水稲栽培マニュアルが参考になる。

具体的データ

図1 「あきだわら環1号」(A)および「ほしじるし環1号」(B)の玄米のCd濃度(mg/kg),表1 「あきだわら環1号」および「ほしじるし環1号」の主要特性

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2012~2020年度
  • 研究担当者:
    黒木慎、石井卓朗、佐藤宏之、後藤明俊、大森伸之介、松原一樹、山口誠之、小林伸哉、平林秀介、竹内善信、加藤浩、春原嘉弘、石川覚、安部匡
  • 発表論文等:
    • 石井ら「あきだわら環1号」品種登録出願公表第33937号(2019年8月30日)
    • 石井ら「ほしじるし環1号」品種登録出願公表第33938号(2019年8月30日)