新たなトコフェロール合成遺伝子の同定とその発現抑制によるトコトリエノール生産
要約
新たなトコフェロール合成遺伝子のOsGGR2を同定し、その遺伝子と既知のトコフェロール合成遺伝子のOsGGR1の両方の機能を抑制させたカルスは、トコフェロールがほとんど夾雑せずにトコトリエノールのみを生産する。
- キーワード:ビタミンE、トコフェロール、トコトリエノール、イネ
- 担当:次世代作物開発研究センター・稲研究領域・米品質ユニット
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ビタミンEには、トコフェロール(Toc)とトコトリエノール(T3)の2種類の同族体が存在する。両者の構造は類似しているが、T3には様々な疾病に関係している血管新生を強力に抑制する機能、Tocよりも強い抗酸化力、血清脂質代謝改善機能があるなど、両者の機能には大きな違いがある。しかし、T3にTocが共存すると、T3の血管新生抑制機能や血清脂質代謝改善機能が抑制される。TocとT3は植物体の脂質中に共存しているが、構造が類似しているために、両者を分離精製することは難しい。玄米にはT3が0.6mg/100g程度に含まれていることが知られており、Tocを含まずにT3のみを含むイネを原料に用いることができれば、簡便にToc を含まないT3を精製することが可能になる。そこで本研究ではTocを含まずにT3のみを含む素材を作出することを目的とする。
成果の内容・特徴
- Tocが合成される際には、ゲラニルゲラニル二リン酸がフィチル二リン酸に還元されることが必要であり、新たに同定したOsGGR2はOsGGR1と同様にゲラニルゲラニル還元酵素をコードし、Tocの生合成経路で機能する(図1)。
- OsGGR2は、ぬか、葉、葉鞘、カルス、幼苗の解析した全ての器官で発現している(図2)。
- 「日本晴」由来のOsGGR1のTos17ミュータントから作出したカルスを用い、さらにOsGGR2をターゲットにしてRNAi法により機能抑制することにより、OsGGR1とOsGGR2の両方の機能を抑制してフィチル二リン酸の合成量を減らし、Tocがほとんど夾雑せずにT3のみを生産するカルスを固体培地で作出できる(図3)。
成果の活用面・留意点
- RNAi法では、個々の組換え体により遺伝子の発現抑制の度合いが異なるため、効率よく遺伝子発現が抑制されているカルスを選抜する必要がある。
- 従来T3はカラムを用いてTocと分離する必要があったが、本技術により分離を必要としないT3の効率的な精製が可能となる。
- OsGGR1とOsGGR2の機能を穂で抑制したイネを作出することで、Tocを含まないT3を生産することができる。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2012~2017年度
- 研究担当者:
木村映一、木村俊之、村田和優(富山県農技セ)、吉田泰二、阿部伎(東北大学)、仲川清隆(東北大学)、宮沢陽夫(東北大学)
- 発表論文等:
- Kimura E. et al. (2018) Sci. Rep. 8:1870
- 木村ら「トコトリエノールの製造方法及びそのための植物」特許6403327号(2018年9月21日)