普通ソバの穂発芽耐性に関わる遺伝子座の検出
要約
普通ソバの穂発芽耐性は系統によって遺伝様式の異なる複数の遺伝子座が関与している。次世代シーケンサーを用いて構築した連鎖地図により量的形質遺伝子座(QTL)解析が可能となり、検出された4つの穂発芽耐性に関わるQTLに連鎖する選抜マーカーにより穂発芽耐性育種が可能である。
- キーワード:普通ソバ、穂発芽、QTL、遺伝子型選抜、次世代シーケンサー
- 担当:次世代作物開発研究センター・畑作物研究領域・カンショ資源作物育種ユニット
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
普通ソバは栽培期間が短く、東北以南では春に播種して初夏に収穫する春まき栽培と、夏に播種して秋に収穫する夏まき栽培の二期作が可能である。春まき栽培は、需要が高まる夏に新ソバを提供でき、台風のリスクを回避しやすいという利点があるが、収穫期が梅雨と重なるため穂発芽による品質の低下が問題となっている。また、近年の温暖化に伴い、ソバの最大産地である北海道においても、穂発芽の発生が問題となっている。穂発芽耐性には品種間差があるが、これまでに関連する遺伝解析の報告はない。そこで本研究では、難穂発芽系統の持つ穂発芽耐性の遺伝様式の解明、次世代シーケンサーを用いた効率的なソバの連鎖地図の構築と穂発芽耐性に関わる遺伝子領域の特定、および選抜マーカーの開発を目指す。これにより、穂発芽耐性の育種を効率的かつ迅速化することを狙う。
成果の内容・特徴
- 難穂発芽性の育成系統「九系29」および「九系28」と易穂発芽性の自殖性系統「九系SC7 (KSC7)」のF2集団の穂発芽率の分離様式は異なる。「九系29」では主に顕性の、「九系28」では主に潜性の遺伝子に支配されていると推察される(図1)。
- 次世代シーケンサーを用いたゲノムワイドなマーカー開発とそれを利用したジェノタイピングから構築した連鎖地図(図2)により、量的形質遺伝子座(QTL)の解析が可能となる。
- 「九系29」には顕性の、「九系28」には潜性の穂発芽耐性を向上させるQTLsが存在する(表1)。
- 作用力が大きい4カ所のQTLについて制限酵素多型に基づく共優性のDNAマーカーを作成した(図3)。
成果の活用面・留意点
- 開発した選抜マーカーを用いることで他殖性の普通ソバにおいても育種集団中の穂発芽耐性が優れる遺伝子の頻度を迅速に高めることができる。特に「九系28」由来の潜性の穂発芽耐性遺伝子の選抜に有効である。
- 「九系29」および「九系28」の穂発芽耐性に関するQTLsはそれぞれ異なるため、各QTLsを組合わせた遺伝子集積(ピラミディング)により穂発芽耐性のさらなる強化が期待できる。
- 開発したマーカーは原因遺伝子そのものの配列情報を利用したものではなく、選抜マーカーと原因遺伝子との間で組換えが生じた場合、そのマーカー選抜で穂発芽耐性を選抜できない点に留意が必要である。
- 普通ソバは高温により休眠が打破され穂発芽が引き起こされるため、収穫時期の温度環境によっては穂発芽耐性の強弱が変動する可能性がある。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2016~2020年度
- 研究担当者:竹島亮馬、原貴洋、小木曽映里、安井康夫(京都大)、松井勝弘
- 発表論文等:
- Hara T. et al. (2020) JARQ 54:137-143
- Takeshima R. et al. (2021) BMC Plant Biol. 21, 18