水稲品種「ミナミユタカ」の難脱粒性を支配する機能欠損型のOsSh1遺伝子アリル

要約

脱粒性"易"の稲発酵粗飼料用品種「モーれつ」の種子にガンマ線照射して育成された脱粒性"難"の品種「ミナミユタカ」は護穎基部に離層が形成されにくい特徴がある。この難脱粒性は遺伝子OsSh1の機能を欠損させる13塩基の欠失によって引き起こされる。

  • キーワード:突然変異、インド型水稲、難脱粒性、全ゲノムシーケンス解析
  • 担当:次世代作物開発研究センター・基盤研究領域・育種法開発ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネ品種の脱粒性が高いと収穫時に脱粒して収量が低下するとともに、水田に落下した種子が漏生イネとなり異品種混入の原因となる。イネの脱粒は護穎基部の離層の形成と崩壊によって起こる。国内に普及する日本型イネ品種の大半は、離層の形成促進に関わるホメオボックス転写因子であるqSH1遺伝子の機能欠損により難脱粒性を示すが、インド型イネ品種では脱粒性が"易"または"中"の品種が多い。これまでインド型イネ品種の突然変異体を用いた研究から複数の難脱粒性遺伝子が同定されたが、多面発現を伴うことから育種利用できるものは少ない。稲発酵粗飼料用品種として九州地方に普及している難脱粒性の「ミナミユタカ」は、易脱粒性の品種「モーれつ」の種子にガンマ線照射して育成されたが、脱粒性を除く諸形質は「モーれつ」とほぼ同等で、難脱粒性遺伝子に多面発現は認められず、育種上の利用価値が高いと考えられる。そこで本研究では、実用性の高い当該遺伝子を同定し、遺伝子の特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「ミナミユタカ」の脱粒性は「モーれつ」より"難"であり(図1A)、「ミナミユタカ」の小枝梗における張力値(籾を脱粒させるのに必要な力)は明らかに「モーれつ」より大きい(図1B)。「モーれつ」は明確に離層が形成されるが、「ミナミユタカ」では離層形成の程度がより低い(図1C)。
  • 「ミナミユタカ」と「モーれつ」の全ゲノムシーケンスの比較解析より、「ミナミユタカ」のYABBY転写因子であるOsSh1遺伝子の第1イントロンと第2エクソンの境界に遺伝子の機能を欠損させる13塩基の欠失が認められる。「ミナミユタカ」と「モーれつ」のF2集団において脱粒性が"難"と"易"の個体数は3対1に分離し、OsSh1遺伝子の変異と難脱粒性との関連が確認される(図2A)。ゲノム編集による易脱粒性の多収イネ品種「特青」のOsSh1のノックアウト系統は難脱粒性を示す(図2B)。
  • OsSh1の機能が欠損した「ミナミユタカ」の幼穂におけるqSH1の発現量は「モーれつ」と同程度で(図3A)、「コシヒカリ」由来の機能欠損型のqsh1を持つ染色体断片置換系統(CSSL)である「タカナリ-qsh1」では、「タカナリ」よりもOsSh1の発現量が低い(図3B)。このことから脱粒性を制御する経路において、OsSh1qSH1の下流にあると推定される。

成果の活用面・留意点

  • 「ミナミユタカ」OsSh1の難脱粒性アリルは、"易"および"中"脱粒性を示す品種の形質改良に利用できる。
  • 「ミナミユタカ」OsSh1の難脱粒性アリルは、漏生イネ対策にも有効である。

具体的データ

図1 「モーれつ」および「ミナミユタカ」の脱粒性の比較。,図2 「ミナミユタカ」の難脱粒性を支配する遺伝子変異の同定,図3 離層形成の制御に関わる遺伝子の発現解析

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:李鋒、小松晃、大武美樹、清水明美、殷熙洙、加藤浩
  • 発表論文等:Li F. et al. (2020) Sci. Rep. 10:14936 doi:10.1038/s41598-020-71972-1