水稲生育に関わる染色体領域を空撮画像により特定する技術

要約

本手法は、圃場において水稲の初期の生育量や形態の違いを空撮画像から数値化し、遺伝的に多様な集団に適用することにより生育量や形態の違いに関わる染色体領域を特定する技術である。

  • キーワード:ドローン、水稲、生育量、染色体領域、多系交雑集団
  • 担当:次世代作物開発研究センター・基盤研究領域・育種法開発ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水稲の初期生育に関わる遺伝子を明らかにするためには、生育過程における変化を詳細に調べる必要がある。一方で、作物の生育に関わる調査を詳細かつ経時的に実施するには多大な労力と時間が必要であり、また、目視で調査する場合には経験の違いなどにより計測値に誤差が生じる可能性がある。
そこで、本研究では、ドローンからの空撮画像を用いることで、圃場に入らずに作物の生育を短時間で調査する手法を開発する。さらに、開発された手法を日本型およびインド型の多収を示す水稲8品種に由来する多系交雑集団 (Multiparent Advanced Generation InterCross: MAGIC)に適用し、生育量や形態に関わる染色体上の領域を遺伝解析により明らかにする。同定された染色体領域については生育に関わる育種基盤情報として活用する。

成果の内容・特徴

  • 本手法では、10aの圃場に対して、ドローン(Phantom 4 Pro、DJI社)に搭載したデジタルカラーカメラを用いて10mの高度で約10分間撮影した約200枚の画像から圃場での位置情報を用いて圃場全体を網羅するようにつなぎ合わせて作成した1枚の画像を利用する。この画像における単位面積当たりの植物の部分が占める割合を「生育量」として数値化する(図1)。初期生育期(移植後約20日から40日目)の水稲を対象にする。
  • 1と同一の画像に対して、茎や葉の広がり具合を数値化する手法(アーチェリー標的型画像解析)を適用することで、水稲の形態(直立型と開帳型)を数値の違いとして評価することが可能である(図2)。
  • 遺伝解析の適用により、画像から算出した生育量や形態に関わる染色体領域を見出すことが可能であり、本研究で用いたMAGIC集団では新規領域3カ所と開帳性を支配することが知られる領域1カ所の合計4カ所が見いだされる(図3)。これらの染色体領域は2年間の調査で安定して検出され、また4カ所の染色体領域の効果に関するアリル情報も合わせて得られる。また、成熟期の地上部乾物重や穂重などの遺伝解析結果と統合することにより、初期生育量と収量形質を支配する各染色体領域の関係が明らかになる。

成果の活用面・留意点

  • 新たに発見した4カ所の染色体領域に着目し、DNAマーカーを活用した育種選抜を実施することで、優れた生育量などの特性をもつ水稲品種の育成が加速することが期待される。
  • 本空撮および画像解析は、ドローンの自動飛行モードを用いて画像を取得し、その画像を基に生育量や形態の違いを評価することから、調査者の経験値の違いに影響されることなく形質データを取得できる。
  • 本空撮および画像解析は、初期生育期(移植後約20日から40日目)の水稲の生育量や形態を評価することが可能であることから、他作物や栽培管理分野などにおける活用も見込まれる。一方で、作物の生長にともない地上部の重なりが増加した場合は、当方法では解析が困難である。

具体的データ

図1 空撮画像を用いた水稲の生育量の計測と経時変化,図2 画像データからの形態的特徴の抽出,図3 生育量および形態に関わる染色体領域

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(育種ビッグデータ)
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:小川大輔、坂本利弘、常松浩史、菅野徳子、野々上慈徳、米丸淳一
  • 発表論文等:Ogawa D. et al. (2020) J. Exp. Bot. 印刷中