小麦農林61号を含む世界の実用コムギ品種の高精度ゲノム配列情報

要約

農研機構が参加した国際共同プロジェクトによる、世界の実用コムギ15品種のゲノム情報解読の成果である。我が国を代表する小麦品種として「小麦農林61号」が含まれる。本成果により、多品種ゲノムの比較解析結果を活用したコムギ育種研究の加速化が期待される。

  • キーワード:コムギ、ゲノム配列、比較ゲノム解析、パンゲノム解析、小麦農林61号
  • 担当:次世代作物開発研究センター・基盤研究領域・育種法開発ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

コムギは、イネ・トウモロコシと並ぶ世界三大穀物だが、実用品種のゲノム配列情報が不足しており、ゲノム配列の比較解析や、ゲノム情報を利用した現代的な分子育種への展開が遅れている。そこで、世界10か国から構成される国際共同研究コンソーシアム「国際コムギ10+ゲノムプロジェクト」を結成し、世界各地で栽培されているコムギ15品種のゲノム解読とゲノム配列情報整備を行う。我が国からは、横浜市立大学、農研機構、京都大学、京都府立大学、産業技術総合研究所、(株)ヒューマノーム研究所が参加し、日本国内の広い地域で栽培されてきた「小麦農林61号」のゲノム解読を担当する。当該品種のゲノムの特徴を明らかにするとともに、15品種間での比較ゲノム解析およびコムギの種全体のゲノム構造の理解に貢献する。

成果の内容・特徴

  • 本研究の材料は、日本の「小麦農林61号」、ヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリアの代表的な13品種、古くから栽培されてきたスペイン原産の「スペルタコムギ」の計15品種である。本成果によって、一品種あたり約12万個の遺伝子配列が全長約14 Gbのゲノム配列情報に位置付けられる(表1)。
  • コムギ種内には、約5,000種の病害抵抗性遺伝子が存在する。今後、新規遺伝子の特徴解析などによって、病害抵抗性育種への展開が期待される。
  • 「小麦農林61号」は、他の14品種と遺伝的に大きく異なり、コムギの多様性研究に貢献できる(図1)。
  • 2018年にゲノム解読された極東由来のコムギ品種「Chinese Spring」とは異なり、「小麦農林61号」には赤かび病抵抗性遺伝子(Fhb1)、半矮性遺伝子(Rht-D1a)、出穂制御遺伝子(Ppd-D1a)などの農業上の重要な遺伝子が存在する。この結果は、日本の高湿度な環境に適応したコムギの遺伝的特徴を反映しており、「小麦農林61号」は気候変動に対応する育種素材として欧米での利用も期待される。

成果の活用面・留意点

具体的データ

表1 コムギ10+ゲノムプロジェクトの材料とゲノム解読結果(最下段の「Chinese Spring」は2018年に解読済み),図1 品種間の遺伝的距離を二次元上に示した主成分分析結果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2020年度
  • 研究担当者:小林史典、田中剛、金森裕之、呉健忠、半田裕一(京都府立大)
  • 発表論文等: