甘く多汁で食味が良く着色しやすい中生のリンゴ新品種「錦秋」(きんしゅう)

要約

「錦秋」は甘味が多く食味の優れる中生のリンゴ新品種である。果皮は濃赤色で着色しやすく、多汁で肉質が良い。

  • キーワード:リンゴ新品種、高品質、中生、着色良好
  • 担当:果樹茶業研究部門・リンゴ研究領域・リンゴ育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

中生リンゴの主要品種である「ジョナゴールド」は、果実の外観が良く、収量が多く栽培しやすいことから栽培が拡大してきた。しかし、「ジョナゴールド」は酸味がやや多く、甘い食味のリンゴ品種を好む消費者の増加に伴って、最近は栽培面積が減少している。また、「ジョナゴールド」は成熟期の高温によって着色不良となりやすいことから、その主産地は冷涼な北東北地域に限定されている。中生品種の「千秋」も品質が良いことから一時期栽培が増加したが、裂果が発生しやすいことから最近は栽培が減少している。そのため、甘味が多く高品質で消費者の嗜好に合致し、着色が容易で裂果が少なく広範な地域で栽培できる中生のリンゴ品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 1994年に果樹研究所(現果樹茶業研究部門)リンゴ研究拠点において、「千秋」に4-4349(「つがる」×「いわかみ」)を交雑して得られた実生から選抜した。2009年から2016年までリンゴ第6回系統適応性検定試験に供試してその特性を検討し、2017年2月の同試験成績検討会において新品種候補とした。2017年7月5日に品種登録出願し、2017年10月26日に出願公表された。
  • 樹勢は中位、短果枝の着生はやや少~中で「千秋」と同程度である。開花期は育成地では5月中旬で、「千秋」や「ジョナゴールド」より3日程度遅い。S遺伝子型はS3S7であり、「つがる」とは交雑不和合性を示すが、「つがる」以外の主要品種とは交雑和合性である。果実の成熟期は10月上旬で「千秋」とほぼ同時期に成熟し、「ジョナゴールド」より19日程度早い。裂果、心かびの発生率はいずれも3%程度で、「ジョナゴールド」と同程度で「千秋」より低い。後期落果の程度は無~少で、斑点落葉病に抵抗性である(表1)。
  • 果実重は300g程度で、「ジョナゴールド」より小さく「千秋」と同程度の大きさである。果皮は濃赤色で着色しやすく、さびの発生は少ない(図1)。肉質は良く、果肉硬度は14ポンド前後で、果汁は多い。糖度は15.4%程度で「千秋」や「ジョナゴールド」よりやや高く、酸度は0.34g/100ml程度で「千秋」や「ジョナゴールド」より低いため、甘味が多く、食感・食味に優れる。果実の日持ち(20°C下での品質保持日数)は10~14日で、「千秋」と同等かやや短く、「ジョナゴールド」より長い(表2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:リンゴ生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北海道など寒冷な栽培地域でも糖度は十分に高く、既存の栽培品種並みに果実が肥大することに加えて、北関東地方(茨城県、栃木県、群馬県)や東海地域(岐阜県)でも着色・食味が優れることが確認されているため、全国各地のリンゴ生産地域で40ha以上の普及が期待される。
  • その他:苗木販売は2018年秋季より開始予定。栽培地域、年次によっては短果枝の着生が少なくなるため、短果枝の着生状況により、必要に応じて長果枝も利用して着果量を確保する。

具体的データ

図1 「錦秋」の結実状況


その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1994~2016年度
  • 研究担当者:阿部和幸、森谷茂樹、岩波宏、古藤田信博、副島淳一、岡田和馬、高橋佐栄、加藤秀憲、小森貞男、土師岳、別所英男、伊藤祐司、石黒亮、清水拓
  • 発表論文等:阿部ら「錦秋」品種登録出願第32286号(2017年10月26日出願公表)