ブドウ苗木への噴霧接種によるブドウ黒とう病抵抗性評価法

要約

温室内で生育させたブドウ挿し木苗あるいは交雑実生幼苗に低濃度のブドウ黒とう病菌を噴霧接種し、病斑の大きさを主要な指標として病徴を達観評価することで、黒とう病抵抗性を安定的に評価できる。

  • キーワード:ブドウ、ブドウ黒とう病、噴霧接種、抵抗性評価法、達観評価
  • 担当:果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・ブドウ・カキ育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ブドウ黒とう病は葉、新梢、果実などの若い組織を侵す雨媒伝染性の病害であり、年により生育期に雨量の多い地域における露地栽培で問題となる。ブドウ品種の抵抗性評価法として、切葉を用いた接種試験法を開発しているが(Konoら、2012)、多数のブドウ個体を評価する上では実験操作がやや煩雑であった。そこで、より簡便で植物体全体の病徴を把握する手法として、挿し木苗あるいは実生苗に黒とう病菌を噴霧接種し、個体としての抵抗性を達観評価する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 温室内で旺盛に生育途上のブドウ挿し木苗あるいは交雑実生幼苗を供試する。河野(2014)の方法に従って調製し低濃度(1×103個/ml)に希釈した黒とう病菌胞子懸濁液を1回噴霧接種し、ビニール袋で覆うことで湿度100%の状態を24時間保つ。その後25度に設定した温室で管理し、14日後に病徴を調査する。
  • 最も病徴の激しい葉における融合していない病斑の平均面積(単一病斑面積)および苗全体の総病斑面積推定値は品種間差が大きく、安定的に評価が出来る(図1)。
  • 黒とう病の病斑(図2)はほぼ円形であり、病斑面積より達観で評価しやすい病斑径を主要な指標とする評価基準(表1)により達観評価を行う。
  • 本手法で達観評価すると、「デラウェア」は常に強い抵抗性を示し、「巨峰」、「キャンベルアーリー」は一定の抵抗性を示す(図3)。一方、「マスカットオブアレキサンドリア」や「リザマート」は明らかな罹病性である。本手法により、年次によらず安定的に評価が可能である。
  • 交雑実生幼苗を達観評価したところ、達観評価でスコア0あるいは1とされた明確な抵抗性個体、あるいはスコア4あるいは5とされた明確な罹病性個体は、翌年以降に殺菌剤無散布圃場で行った抵抗性評価結果が概ね一致する。

成果の活用面・留意点

  • 降雨による他の病害や虫害の影響のない温室内で達観評価することで、安定的な評価結果を得ることが出来る。
  • 本達観評価は苗全体の病徴を把握するのに有効であり、「デラウェア」を抵抗性、「巨峰」あるいは「キャンベルアーリー」を中程度抵抗性、「マスカットオブアレキサンドリア」あるいは「リザマート」を罹病性の対照品種として共に調査することで、抵抗性が未知の個体の抵抗性を評価できる。

具体的データ

図1 画像解析により測定した単一病斑面積および苗全体の総病斑面積推定値の比較
各品種8苗を供試した;図2 接種14日後の黒とう病病徴例;図3 抵抗性の異なる5品種の黒とう病抵抗性達観評価平均値

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2017年度
  • 研究担当者:河野淳、朽名夏麿(東京大、エルピクセル)、尾上典之、伴雄介、佐藤明彦
  • 発表論文等:
  • 1)河野(2014)植物防疫、68(12):756-760
    2)河野ら(2017)園芸学研究、16(4):391-400