リナロールを高含有化した遺伝子導入オレンジはカンキツかいよう病菌の生育を抑制する

要約

カンキツかいよう病に罹病性の'ハムリン'オレンジにリナロール合成酵素遺伝子を導入した遺伝子組換え体の葉では、カキツかいよう病菌を接種しても生育が著しく抑制される。

  • キーワード:香気成分、抵抗性、遺伝子組換え、カンキツ、抗菌活性
  • 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツゲノムユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、国内のカンキツ園地では、消費者の多様なニーズに応えるため、カンキツかいよう病に比較的強いウンシュウミカン(Citrus unshiu Marc.)に代わって、かいよう病に弱いオレンジ類を育種親系統に持つ中晩柑類の導入が進んでいる。今後の温暖化の進行によりカンキツかいよう病被害の深刻化が懸念されるため、栽培労力の低減や生産コストの削減に向けて、カンキツかいよう病抵抗性を持つ新品種の開発が期待されている。これまでの研究で鎖状テルペンのリナロールがカンキツかいよう病菌(Xanthomonas citri subsp. citri)や緑かび病菌(Penicillium digitatum)などに抗菌活性を示し、カンキツかいよう病に圃場抵抗性を持つポンカン等のカンキツ類で高含有されていることを明らかにしている。カンキツかいよう病に罹病性の'ハムリン'オレンジ(Citrus sinensis Osbeck)にリナロール合成酵素遺伝子を導入した遺伝子組換え体を作成し、リナロールの含有量がカンキツかいよう病抵抗性に対する影響を評価する。

成果の内容・特徴

  • ウンシュウミカンから単離したリナロール合成酵素遺伝子をアグロバクテリウム法により遺伝子導入した'ハムリン'オレンジ(以下、遺伝子導入オレンジ)の葉はこれを導入しなかったオレンジ(非導入オレンジ)よりリナロールを高含有化している(図1)。
  • カンキツかいよう病菌(KC21株)を噴霧接種して、30日後に葉の発病程度を調査したところ、遺伝子導入オレンジでは非導入オレンジと比べて発病が著しく抑制される(図2、図3)。
  • カンキツかいよう病菌(KC21株)を多針付傷接種して5日後に、生存した病原細菌数を調査したところ、遺伝子導入オレンジではリナロールを高含有する個体ほど細菌の生育数が著しく減少している(図4)。また、病害抵抗性の誘導に関わるサリチル酸とメチルジャスモン酸、ならびにリナロールを非導入オレンジに処理した葉に、カンキツかいよう病菌を多針付傷接種し、5日後に生存した病原細菌数を調査したところ、処理区の葉では未処理区と比べて細菌の生存数が著しく減少している。
  • 遺伝子導入オレンジやサリチル酸とメチルジャスモン酸、及びリナロールを処理した葉では、非導入オレンジの葉と比べて、PR遺伝子の高発現していることから、リナロールが抵抗性遺伝子の発現誘導に関わることが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 遺伝子組換え技術により罹病性のオレンジの葉にリナロールを蓄積させるとカンキツかいよう病抵抗性が賦与されることから、葉のリナロールの含有量がカンキツかいよう病抵抗性に関与することが示唆される。
  • リナロールの含有量と圃場抵抗性との関連性について、今後、詳細に調査を進める予定である。

具体的データ

図1 遺伝子導入オレンジ(#2、#3、#5)と非導入オレンジ(CNT)の葉のリナロール含有量;図2 噴霧接種30日後の非導入オレンジ(CNT)と遺伝子導入オレンジ(#2)の葉の写真;図3  噴霧接種30日後の遺伝子導入オレンジ(#2、#3、#5)と非導入オレンジ(CNT)の罹病班の面積比率;図4 多針付傷接種5日後の遺伝子導入オレンジ

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2014~2016年度
  • 研究担当者:島田武彦、遠藤朋子、Ana Rodríguez(IBMCP)、藤井浩、後藤新悟、藤川貴史、Leandro Peña(IBMCP)、大村三男(静岡大農)
  • 発表論文等:Shimada T. et al. (2017) Tree Physiol. 37(5):654-664