ウンシュウミカンのβ-クリプトキサンチンは貯蔵・流通中に減少せず増える場合がある

要約

ウンシュウミカン果肉中の栄養成分であるβ-クリプトキサンチンの含量は、果実の成熟度や品種にかかわらず、収穫後5~20°Cの貯蔵では減少せず、8°C以上の貯蔵では増える場合がある。

  • キーワード:ウンシュウミカン、β-クリプトキサンチン、貯蔵温度、貯蔵期間、成熟度
  • 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツ流通利用・機能性ユニット
  • 代表連絡先:電話 054-369-7100
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ウンシュウミカンにおいて、β-クリプトキサンチンは果肉中の主要なカロテノイドで、橙色の色素であり栄養機能を有する重要な品質成分である。ウンシュウミカンは品種によって成熟期が9月~12月まで幅広く、貯蔵・流通時の温度や期間は多様である。また同じ品種でも出荷される果実の成熟度は完全着色から緑が残る段階まで様々である。しかし成熟度が異なる場合、貯蔵温度と期間によって果肉中のβ-クリプトキサンチン含量がどのように変化するかは明らかではない。そこで本研究では、異なる品種や成熟度の果実を5~20°Cで貯蔵して果肉中のβ-クリプトキサンチン含量の変化を調査して、成熟度および貯蔵温度と期間が果肉中のβ-クリプトキサンチン含量に及ぼす影響を明らかにすることにより、貯蔵流通中のβ-クリプトキサンチン含量の変動を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 収穫後の果実を20°Cで15日間貯蔵(流通過程を想定)すると、果肉中のβ-クリプトキサンチン含量は、樹上で含量が増える時期の果実では収穫後も増えるが、樹上で増えない時期の果実では収穫後も増えない(図1)。一方5°Cでは成熟期にかかわらず、収穫後、含量は変化しない。
  • β-クリプトキサンチンの生合成・代謝酵素遺伝子の発現解析から、20°Cでは、樹上の成熟過程で見られるβ-クリプトキサンチンの生合成と集積が収穫後も継続するが、5°Cでは停滞する。
  • 成熟期が異なる品種(極早生~晩生)を適期に収穫して20°Cで2週間貯蔵すると、含量が増える品種があり、これらの品種では樹上でも含量が増える(図2)。一方、収穫後含量が増えない品種では樹上でも含量が増えない(図2)。
  • 貯蔵向け品種である「青島温州」を適期に収穫して5°Cと10°Cで3ヶ月間貯蔵すると、5°Cでは含量がほとんど変化しないのに対して、10°Cでは1ヶ月後に含量が増加し、貯蔵期間中、その含量が保たれる(図3)。8°C以上であれば貯蔵中に含量が増加する(図4)。
  • このように果肉中のβ-クリプトキサンチン含量は、5~20°Cであれば貯蔵・流通中に減ることはなく、むしろ増える場合があり、樹上で含量が増える時期に収穫する果実では、そうでない果実に比べて、収穫後、短期間で含量が増えやすい。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、ウンシュウミカン果肉中のβ-クリプトキサンチン含量が、通常の貯蔵・流通過程や家庭での保管中に減少することはなく、むしろ果実の成熟度や貯蔵温度と期間によっては増える場合があることを示しており、β-クリプトキサンチンに基づく機能性表示等を行う生産団体や当該成分に関心のある消費者に対して情報を提供する。
  • ウンシュウミカンは収穫期が遅れると果皮障害が出やすいため、β-クリプトキサンチン含量を増やすために収穫期を遅らせることは困難である。しかし貯蔵や流通中に含量を増やせる場合がある。

具体的データ

図1 成熟期ごとに収穫後20°Cで貯蔵した「青島温州」果肉中のβ-クリプトキサンチン(BCR)含量の変化,図2 成熟期の異なる品種を20°Cまたは樹上で2週間貯蔵後のβ-クリプトキサンチン含量の変化,図3 「青島温州」貯蔵中のβ-クリプトキサンチン含量の変化(果肉),図4 貯蔵80日後の「青島温州」果肉中のβ-クリプトキサンチン含量

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(業務・加工用)、その他外部資金(24補正「機能性食品プロ」)
  • 研究期間:2007~2018年度
  • 研究担当者:松本光、生駒吉識、足立嘉彦、加藤雅也(静岡大)
  • 発表論文等:
    • Matsumoto H. et al. (2019) Hort.J. 88:214-221