赤ナシ果皮地色の非破壊評価法

要約

携帯型分光計を用い、赤ナシの果皮表面から波長域650~740nmの散乱光の反射率を測定することで、果皮のクロロフィル含量を迅速かつ高精度に測定できる。コルク層下の地色を正確に評価でき、赤ナシの非破壊熟度判定に活用できる。

  • キーワード:ニホンナシ、地色、熟度判定、果皮のクロロフィル含量、非破壊
  • 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ニホンナシ(Pyrus pyrifolia)の収穫時期の判定には,果皮表面色および地色のカラーチャートが広く利用されている。地色による評価では主に成熟の進行に伴う果皮の緑色の減少程度をみており、表面色よりも果実の熟度をより正確に判定できる。しかし、果皮表面がコルク層で覆われた赤ナシの場合、コルク層をはぎ取り地色の判定を行う必要があり、判定に時間がかかるだけではなく、果実の商品価値が失われる。また、カラーチャートは目視による段階的な官能評価であることから,調査者や光環境による誤差が生じる。そこで、携帯型分光計を用い、コルク層の上から果皮のクロロフィル含量を迅速に計測し地色を評価することで、赤ナシの熟度を非破壊で簡便に判定する方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • コルク層の上から果皮を透過した650~740nmの波長域の散乱光の反射率を非破壊で測定し、同部位の果皮抽出液中のクロロフィル含量の実測値に対し、部分的最小二乗回帰分析により作成した推定モデルにより、2016年産の「幸水」、「豊水」および「あきづき」において、それぞれの品種から作成した推定モデルで高精度(r2=0.962~0.974)にクロロフィル含量を推定できる(図1)。
  • 品種及び年次を越えた推定モデルの精度を検証するため、2017年産「幸水」の推定モデルを用いて2016年産の上述の3品種のクロロフィル含量を推定すると、高精度(r2=0.956~0.974)で推定でき、推定モデルの汎用性が高い(データ略)。
  • クロロフィル含量と地色との間には品種に関わらず一定の高い相関がみられ(r2=0.937~0.953)、クロロフィル含量を地色のカラーチャート値に変換することが可能である(図2)。
  • 晴天の野外条件と室内の測定でほぼ同じ値を示し、野外での測定が可能である(図3)。しかし、太陽の方向に受光部の隙間があると、まれに外れ値を示す(図3D)。受光部が果皮を覆っていれば、果実のどの部位でも測定が可能である。また、受光部および発光部に葉がかかると測定できない。なお、測定時間は1果あたり0.5秒である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:ニホンナシ生産者、公設試、JA等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:ニホンナシ生産地域で活用できる。
  • その他:本機器は商品名「果実非破壊測定器 おいし果」のクロロフィル含量測定用波長フィルターを付与した製品として千代田電子工業(株)より40万円程度で購入可能である。
  • 「幸水」、「豊水」および「あきづき」以外の品種については、様々な地色の果実を複数果用い、測定値から変換した地色が対象品種の地色と一致することを確認してから使用する。

具体的データ

図1 果皮のクロロフィル含量の実測値と計算値との関係(2016年),図2 クロロフィル含量と地色との関係,図3 室内で計測したクロロフィル含量計算値と野外(ナシ棚下,方向別)で計測したクロロフィル計算値との関係

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2017年度
  • 研究担当者:山根崇嘉、原田昌幸(千代田電子工業(株))、羽山裕子、三谷宣仁、中村ゆり、草塲新之助
  • 発表論文等:
    • 山根ら(2019) 園芸学研究、18(3):253-258
    • 山根ら「クロロフィル含有量の測定方法及び果実の熟度判定方法」特願2019-128000(2019年7月10日)