ウンシュウミカンでのβ‐クリプトキサンチンの可視・近赤外分光法による非破壊計測法

要約

可視・近赤外分光法による非破壊光センサーとβ‐クリプトキサンチン(以下、BCR)簡易測定装置を組み合わせることでウンシュウミカン(以下、ミカン)果実中のBCR含有量を実用レベルの精度で非破壊推定できる技術を開発した。今後、BCR含有量でミカンを選果することも可能となる。

  • キーワード:ウンシュウミカン、カロテノイド、β‐クリプトキサンチン、非破壊推定、可視・近赤外分光法
  • 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツ流通利用・機能性ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8011
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、BCRが骨の健康維持に有効と示されたことから、これを特徴的に多く含むミカンが機能性表示食品として届出されている。機能性表示食品では機能性関与成分の含有量を保証する必要があり、HPLC分析値の添付と品質管理方法の提示が必須となっている。ミカンは生鮮農産物であるため、品種や栽培地域・条件等の様々な影響によりBCR含有量にはばらつきが生じる。現在は糖度とBCR含有量との有意な正相関を利用して、糖度が基準より低い果実を規格外として除外することでBCR含有量の下限値保証をしているが、判定精度の向上とHPLC分析の負担軽減がなお課題となっている。
そこで本研究では、青果物が含有する色素成分を簡易に測定する装置(以下、BCR簡易測定器,(一財)雑賀技術研究所)で測定したミカン果実中のBCR含有量と相関する波長を非破壊光センサーで見出して新たなBCR含有量の非破壊推定システムを構築し、実用的な測定精度で非破壊推定できるかを検討する。

成果の内容・特徴

  • 新たなBCR含有量非破壊推定システムの検量線は、BCR簡易測定器で得られる測定値と非破壊光センサーによる吸収スペクトルデータから部分最小二乗回帰分析(PLSR)によって作成・評価を行う。検量線作成用試料ではR2が0.88、RMSEC値が0.16に対し、検量線評価用試料ではR2が0.88、RMSEP値が0.16となり、推定精度が同等の高精度な検量線を作成できる(表1)。
  • 非破壊光センサーによる推定値とHPLC分析値との相関は、R2が0.90、RMSEP値が0.17となり、RPD値も3.01であることから、実用レベルで運用できる精度である(表2、図1)。
  • 上記1.および2.の結果より、BCR簡易測定器と非破壊光センサーを組み合わせることで、ミカン果実中のBCR含有量を精度高く非破壊で推定することが可能となる。
  • 糖度とBCR含有量は正の相関関係にあるが、糖度とBCR含有量との回帰分析から検量線を作成すると、推定精度はR2が0.36、RMSEP値が0.41、RPD値が1.24と新たなBCR含有量非破壊推定システムに比べてばらつきが大きい(図2)。
  • 新たなBCR含有量非破壊推定システムはBCR含有量でミカンを選別することを可能にする。

成果の活用面・留意点

  • 本システムでは、BCR含有量をHPLC分析値と同等の精度で直接推定できることから、BCR含有量に応じた規格基準で販売することが可能と考えられる。
  • 本システムは、測定対象物に含有されるカロテノイドのほとんどがBCRであるミカンで構築したものである。

具体的データ

表1 PLS回帰分析を用いた非破壊光センサーによるBCR含有量,表2 評価用試料のBCR含有量(HPLC分析値)の非破壊光センサー推定精度,図1 ミカン果実中のBCR含有量の推定,図2 ミカン果実中のBCR含有量の推定

その他

  • 予算区分:交付金、27補正「地域戦略プロ」
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:久永絢美、阪中達幸((一財)雑賀技術研究所)、吉岡照高、杉浦実(同志社女子大)
  • 発表論文等:久永ら(2019)日本食品科学工学会誌、66(3):83-89