リンゴ「あかね」の黒星病圃場抵抗性に寄与する染色体領域の特定

要約

リンゴ「あかね」の黒星病圃場抵抗性に寄与する主要な量的形質遺伝子座(QTL)は第17染色体上に存在する。このQTLの抵抗性型対立遺伝子は「あかね」の種子親である「Worcester Pearmain」に由来している。

  • キーワード:量的形質遺伝子座(QTL)、量的形質、DNAマーカー、病害抵抗性、育種
  • 担当:果樹茶業研究部門・リンゴ研究領域・リンゴ育種ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リンゴ黒星病菌(Venturia inaequalis (Cooke) G. Wint.)によって引き起こされるリンゴ黒星病はリンゴ栽培における最重要病害の一つである。近年、主要なリンゴ産地において、殺菌剤感受性が低下した黒星病菌が顕在化しており、抵抗性品種の利用への関心が高まっている。リンゴ品種「あかね」は黒星病に対して圃場抵抗性を示すが、その遺伝的背景は明らかにされていない。そこで、本研究では、「あかね」の黒星病圃場抵抗性に寄与する染色体領域を特定し、「あかね」を利用した抵抗性品種の育成に必要な基礎的知見を得ることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 黒星病罹病性の「王林」に「あかね」を交雑して得られたF1集団132個体について、殺菌剤無散布圃場における黒星病の自然発病状況を、胞子が形成された葉面積に基づいた7段階の病徴スコアで評価したところ、個体間で病徴に大きな差が認められ、F1集団内で連続的な病徴の分布がみられる(図1)。
  • 上記データを用いた量的形質遺伝子座(QTL)解析からは、「あかね」の第17連鎖群上に寄与率20.0%と本供試集団において最大の効果を示すQTLが検出される(図2A)。
  • 本供試集団において、このQTLの抵抗性型対立遺伝子を有する個体群(抵抗性型)は、病徴スコアの平均値が1.9であり、有しない個体群(罹病性型)の平均値3.0よりも有意に小さく、胞子形成部位の葉面積に一定の差異が認められる(図3)。
  • 本QTL周辺のDNAマーカーを利用して「あかね」の抵抗性型対立遺伝子の由来を検討したところ、その染色体領域は種子親である「Worcester Pearmain」に由来すると判断される(図2B)。

成果の活用面・留意点

  • 本QTLをDNAマーカーによって選抜する際には、近傍のDNAマーカーであるSAmsCO903298などから、対象とする交雑組み合わせにおいて多型の識別が可能なものを適切に選択して利用することが必要である。
  • 本QTLの抵抗性型対立遺伝子を有する個体であっても、表現型は罹病性を示す場合があることに留意する。
  • 「あかね」の後代である黒星病圃場抵抗性品種「さんさ」(「Gala」×「あかね」)には本QTLの抵抗性型対立遺伝子は遺伝していないため、「さんさ」とその後代を交雑親に用いた実生集団には本成果を適用することはできない。また、「さんさ」が示す黒星病抵抗性の遺伝的背景は明らかにされていない。

具体的データ

図1 「王林」に「あかね」を交雑して得られたF1集団について殺菌剤無散布圃場で評価した黒星病病徴スコアの分布,図2 第17連鎖群(染色体)に座乗する黒星病抵抗性QTL,図3 「王林」に「あかね」を交雑して得られたF1集団が示す黒星病病徴スコアの第17染色体に検出された黒星病抵抗性QTLの遺伝子型に基づく分類

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2019年度
  • 研究担当者:
    森谷茂樹、後藤聡(地独青森産技セりんご研究所)、久保隆(地独青森産技セりんご研究所)、國久美由紀、田沢純子(地独青森産技セりんご研究所)、工藤剛(地独青森産技セりんご研究所)、葛西智(地独青森産技セりんご研究所)、工藤悠(地独青森産技セりんご研究所)、岡田和馬、山本俊哉、深澤(赤田)朝子(地独青森産技セりんご研究所)、初山慶道(地独青森産技セりんご研究所)、阿部和幸
  • 発表論文等:森谷ら(2019)園学研、18:349-361