リンゴ黒星病菌のDMI剤感受性低下にはCYP51A1遺伝子の非同義塩基置換が関わる

要約

リンゴ黒星病菌分離株の中で、DMI 剤の標的遺伝子であるCYP51A1 遺伝子の133 番目のアミノ酸置換を伴う一塩基置換(Y133F)は、培地上でのDMI 剤感受性と有意に相関がある。Y133Fの有無はアリル特異的PCRにより識別でき、リンゴ黒星病菌のDMI剤感受性低下の検出に有効である。

  • キーワード:リンゴ黒星病菌、DMI剤、薬剤感受性、CYP51A1、変異、非同義塩基置換
  • 担当:果樹茶業研究部門・リンゴ研究領域・病害虫ユニット
  • 代表連絡先:電話 02-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、青森県でリンゴ黒星病が多発し、本病の基幹殺菌剤であるステロール脱メチル化酵素阻害剤(DMI剤)に対する感受性が低いリンゴ黒星病菌の発生が問題となっている。DMI剤低感受性リンゴ黒星病菌の蔓延を防ぐために、本菌のDMI剤感受性評価が必要であるが、培地上での生育が遅く、薬剤を添加した培地での検定やリンゴ樹を用いた生物検定では、結果を得るまでに2-3ヶ月間を要する。一方、感受性低下の原因として、DMI剤の標的遺伝子であるステロール14-α脱メチル化酵素(CYP51A1)遺伝子の変異、本遺伝子の発現量増加ならびに他遺伝子の関与などの遺伝的要因が考えられ、その遺伝的情報の活用により、従来検定法よりも迅速にDMI剤感受性(の低下)を推定できる遺伝子診断技術の開発が期待される。
そこで、本研究では、DMI剤感受性が異なるリンゴ黒星病菌分離株について、CYP51A1遺伝子の塩基配列を決定し比較することにより、DMI剤感受性低下に関わる塩基置換を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 青森県で分離されたリンゴ黒星病菌15株のCYP51A1遺伝子のイントロン配列を含むコード領域全長塩基配列を決定し、感受性株(Ent27)のCYP51A1遺伝子と比較すると、5ヶ所の塩基置換が検出される(表1)。各分離株の塩基置換部位と培地におけるDMI剤2種の半数効果濃度(EC50)との関連を調べると、CYP51A1遺伝子翻訳産物の133番目のアミノ酸置換(フェニルアラニンからチロシン)を伴う非同義塩基置換(Y133F)を有する6分離株(ARVi9、AR16Vi111、AR16Vi118、AR16Vi248、ARVi363、AR16Vi370)のDMI剤に対する感受性が低い傾向にある(表1)。
  • CYP51A1遺伝子のY133Fの有無は、非置換特異的プライマーペアまたはY133F特異的プライマーペアを用いたアリル特異的PCRにより識別できる(図1)。
  • 青森県で分離されたリンゴ黒星病菌145株のCYP51A1遺伝子のY133Fの有無をアリル特異的PCRで調べると、56菌株がY133Fを有し、89菌株がY133Fを有さない(図2)。Y133Fを有する菌株のDMI剤に対するEC50の平均値は、Y133Fを有さない菌株の平均値よりも有意に高く(図2)、CYP51A1遺伝子のY133Fは、DMI剤感受性低下に関わると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • リンゴ黒星病菌からのゲノムDNA抽出は、ポテトデキストロース寒天培地で培養した菌体から市販のキット(MagExtractor-Plant Genome kit (TOYOBO)など)を用いて行うことができる。罹病リンゴ葉の1病斑からも同様の方法で本菌のゲノムDNAが抽出できる(データ省略)。
  • 罹病リンゴ葉の1病斑からアリル特異的PCRを行うことで、菌の分離をせずにY133Fの有無の識別が可能となり、迅速な診断に活用することができる。
  • Y133Fを有する菌株のDMI剤に対する培地での感受性は菌株によって差があること、およびリンゴ樹での生物検定は未実施であるため、Y133Fを有する菌株の全てをDMI剤が効かない耐性菌と断定することはできない。
  • Y133Fを有さない菌株でもDMI剤に対する培地感受性が低い菌株も認められ、Y133F以外の感受性低下機構が関わると考えられる。

具体的データ

表1 リンゴ黒星病菌分離株のDMI剤(ファナリモルとジフェノコナゾール)に対する培地感受性(EC50)とCYP51A1遺伝子の塩基置換部位,図1 アリル特異的PCRによるY133Fの有無の識別,図2 リンゴ黒星病菌のY133Fを有する株と非置換株のDMI剤に対するEC50(左)とその平均値(右)右図のエラーバーは標準偏差を示す

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(効率的防除体制再編)、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:八重樫元、平山和幸(青森産技セりんご研)、赤平知也(青森産技セりんご研)、伊藤伝
  • 発表論文等:
    • Yaegashi H. et al. (2020) J. Gen. Plant Pathol. 86(4):245-249