収穫後の適切な光照射と温度処理により赤色系ブドウ果実の着色が改善する

要約

赤色系ブドウ品種における着色不良の果粒に対し、収穫後に光照射と適切な温度条件(15~20°C)の併用処理を7~9日間行うことで、品種本来の果皮色に改善できる。適切な光照射と温度処理による収穫後果実の着色改善の要因の一つは、着色関連遺伝子群の相乗的な発現量増加である。

  • キーワード:アントシアニン、温度、着色改善、光、ブドウ、ポストハーベスト
  • 担当:果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・ブドウ・カキ育種ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ブドウ果皮色の良否は、市場価値に直結する重要な果実形質の一つである。しかし、主に「安芸クイーン」や「クイーンニーナ」等の赤色系ブドウ品種は、果実成熟期に高温となる地域で着色不良になりやすく、普及上の課題となっている。これまでにブドウの着色改善技術として、環状はく皮や摘葉処理等、栽培期間中の果実を対象とした技術は数多く開発されている。しかし、収穫後の果実を対象とした着色改善技術の報告例はない。
そこで本研究では、ブドウの着色を改善する収穫後処理技術の開発に向けた基礎的知見を得ることを目的に、収穫後のブドウ果実の着色改善に適した光および温度処理条件、ならびに着色改善効果と着色関連遺伝子群の発現量との関係を明らかにする。さらに、収穫後の光照射と温度処理による着色改善効果の品種間差異を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 着色不良を生じたブドウ果粒をMA包装資材に密封し、光照射(白色光(ピーク波長:352nm、光量:約80μmol m-2s-1)ならびに青色光(ピーク波長:445nm、光量:約100μmol m-2s-1))と15~25°Cの温度処理を併用した処理を7~9日間行う。この処理により、赤色系ブドウ品種「クイーンニーナ」(処理前アントシアニン含量:0.07g kg-1)等の収穫後果実の果皮アントシアニン含量が顕著に増加するとともに、品種本来の果皮色に改善する(図1A、B)。一方、暗黒区あるいは10°C処理区では着色改善効果が小さい。
  • 処理温度帯を15~20°C程度にすることで、着色を改善するとともに、酸度の低下や果粒重の減少等の果実品質の低下を抑えることができる(データ略)。
  • 適切な光照射と温度処理条件下では、多くの着色関連遺伝子群の発現量が顕著に増加する(図2)。このことから、光照射と温度処理による収穫後果実の着色改善の要因の一つは、着色関連遺伝子群の相乗的な発現量増加と考えられる。
  • 適切な光照射と温度処理により、多くの赤色系品種の果皮アントシアニン含量が処理前の2~3倍以上に安定して増加するとともに品種本来の果皮色に改善する(表1)。一方、黒色系品種では明確な着色改善効果が認められない。

成果の活用面・留意点

  • 収穫後ブドウ果実の着色不良対策技術の開発に資する基礎資料となる。
  • 本技術は、現時点では赤色系ブドウ品種を対象にしている。
  • 低糖度の果粒では十分な着色改善効果を得られない可能性が高い。
  • 本技術による着色改善効果は果房においても確認されているが、果房全体への均一な光照射方法等の検討が必要である。
  • 本知見に基づいて、収穫後ブドウの着色改善処理に適した装置(粒売り用・果房用)の開発を進めている。

具体的データ

図1 収穫後の光照射と温度処理条件の違いが「クイーンニーナ」の果皮アントシアニン含量(A)と果皮色(B)に及ぼす影響,図2 収穫後の光照射と温度処理条件の違いが「クイーンニーナ」果皮における着色関連遺伝子群の発現量に及ぼす影響,表1 収穫後の光照射と温度処理が着色系ブドウ品種の果皮アントシアニン含量に及ぼす影響

その他

  • 予算区分:交付金、先導プロ(果樹供給拡大)
  • 研究期間:2015~2019年度
  • 研究担当者:東暁史、藥師寺博、佐藤明彦
  • 発表論文等:
    • Azuma A. et al. (2019) Postharvest Biol. Technol. 147:89-99