カンキツの花成促進遺伝子を利用した世代促進法の開発

要約

花成促進遺伝子CiFTを導入した早期開花性を示す遺伝子組換え体とDNAマーカーを利用して戻し交雑を効率的に繰り返して育種世代を促進できる。最短で1年1世代の促進が可能で、ゲノムから外来遺伝子が離脱したカンキツトリステザウイルス抵抗性のヌルセグリガントを獲得できる。

  • キーワード:CTV抵抗性、世代促進、早期開花、ヌルセグリガント、戻し交雑
  • 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツゲノムユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6436
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、カンキツ園地ではカンキツトリステザウイルス(CTV)、カンキツかいよう病、グリーニング病などの主要病害の被害が顕著化する傾向にあり、病害抵抗性を有する育種素材の開発を早急に進める必要がある。これらの育種素材開発のために、病害抵抗性をもつカラタチやキンカンなどの近縁種をカンキツ類と交雑した雑種では、果実の食味や大きさ等の複数形質が不良となり、それらを改善するためカンキツ類との戻し交雑を数世代にわたって繰り返す必要がある。カンキツ類では通常、播種後安定して開花・結実するまで7-10年程度を要し、不良形質を改善するための数世代にわたる戻し交雑には50年以上の期間が必要である。
そこで、早期開花性遺伝子を導入したカラタチを利用することで、1世代に要する期間を短縮した世代促進育種技術を開発する。開花を促進する外来遺伝子は、最終的な品種や育種素材では不要となるため、外来遺伝子が分離除去された個体を解析して、外来遺伝子(遺伝子組換え体の作成に使用するバイナリーベクターからカラタチのゲノムに挿入されたT-DNA領域)をもたないCTV抵抗性の育種素材の作成が可能であることを検証する。

成果の内容・特徴

  • 本法は、カラタチ由来のCTV抵抗性を交配によりカンキツ類に導入する際に必要な戻し交雑の期間を短縮するために、早期開花性遺伝子を導入したカラタチとDNAマーカー選抜を利用して、外来遺伝子が離脱したCTV抵抗性のカンキツ育種素材を作成する技術である(図1)。
  • 通常の戻し交雑育種では播種後安定して開花・結実するまで7~10年程度を要するところを、本技術の利用により最短で1年に1世代の世代促進が可能となる。
  • T0世代の交雑に利用した遺伝子組換えカラタチT0-2-11は、ゲノム中にCTV抵抗性と外来遺伝子をそれぞれ単一のヘテロ型に保持している。戻し交雑第2世代(BC2)の実生個体を用いて遺伝子地図を作成して連鎖解析したところ、CTV抵抗性は第2連鎖群に、外来遺伝子は第9連鎖群にマッピングされる。
  • 戻し交雑で得られた実生個体については、グラフィカルジェノタイピング法により、染色体の置換状況を評価している(図2)。ゲノム中に挿入された外来遺伝子は、交雑による染色体の遺伝分離によりゲノム中から離脱できる。
  • ゲノムタイリングアレイ解析や次世代シーケンス解析により、外来遺伝子が離脱したヌルセグリガントでは、ゲノム中に組み換え遺伝子が残存してないことを確認している(図3)。
  • DNAマーカーによりCTV抵抗性と判定されたヌルセグリガントは、イムノストリップ法(Agdia社)によるCTV抵抗性であることを確認している(図4)。
  • 本技術を用いて、CTV抵抗性が座上しているハプロタイプブロック以外のゲノムをカンキツ型に置換したBC3世代のヌルセグリガントを獲得できる。

成果の活用面・留意点

  • 外来遺伝子の有無に関わらず、本法は閉鎖系温室で実施する必要がある。
  • 早期開花性を示す遺伝子組換え体は生育が遅いことから、次世代の交雑種子を獲得するために花粉親として利用している。
  • CTV抵抗性以外の形質について本法を利用するためには、導入目的の形質を幼苗で選抜できるDNAマーカーが別途必要である。

具体的データ

図1 カンキツの世代促進の概要,図2 BC2とBC3世代の実生個体のグラフィカルジェノタイプマップ,図3 ゲノムタイリングアレイ解析(左)と次世代シーケンス解析(右)による外来遺伝子の残存性の評価,図4 世代促進技術で得られたヌルセグリガントのイムノストリップ(Agdia社)によるCTVの検出

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(新ゲノム育種)
  • 研究期間:2003~2019年度
  • 研究担当者:遠藤朋子、島田武彦、藤井浩、大村三男(静岡大学)
  • 発表論文等:
    • Endo et al.(2020)BMC Plant Biology. 20:224