倍加半数体の利用によるリンゴの高感度QTL解析

要約

稔性のある倍加半数体「リンゴ中間母本95P6」を花粉親とした交雑集団を用いて遺伝解析を行うことで、酸度、果汁褐変性、裂果性等の果実形質に係るQTLを種子親で高感度に検出できる。裂果性は潜性遺伝であり、高酸性および果汁の低褐変性と連鎖している。

  • キーワード:倍加半数体、QTL、酸度、果汁褐変性、裂果性
  • 担当:果樹茶業研究部門・品種育成研究領域・ゲノムユニット、福島県農業総合センター・果樹研究所、岩手大学・農学部
  • 代表連絡先:電話 029-838-6474
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

果樹の多くは他殖性であることから、両親から異なるゲノムを受け継ぐヘテロ個体である。このため、量的形質の遺伝解析では、ホモ個体1)を材料として扱うことが可能なイネ、野菜等の他作物と比較して原因となる量的形質遺伝子座(QTL)の検出感度が劣り、詳細な遺伝特性の解明が困難となっている。そこで本研究では、リンゴ品種「千秋」の花粉培養によりホモ個体となった、稔性のある倍加半数体2)(Doubled Haploid、DH)「リンゴ中間母本95P6」を花粉親とした交雑集団を作成し、果樹で初めてホモ個体を利用した果実形質のQTL解析を実施し、その有効性を評価する(図1)。

成果の内容・特徴

  • DH品種「リンゴ中間母本95P6」を花粉親、「プリマ」を種子親とした77個体の交雑実生を用いたQTL解析では、第16連鎖群上部に、酸度、果汁褐変性、裂果性、果肉色(黄肉性)、果皮色、ソルビトール含量のQTLが検出される。酸度、果汁褐変性、裂果性のQTLは極めて高い感度(K*値)で同一領域(Hi02h08他4マーカー上)に検出される(図2)。
  • DH個体を花粉親に用いた分離集団において、酸度、果汁褐変性、裂果性は単純な二峰性分離を示し、質的形質として解析が可能である。これらのQTLに連鎖するHi02h08マーカー座の対立遺伝子の組合せにより、各形質の分離が良く説明できる(図3)。
  • 裂果性は潜性遺伝である。また、「プリマ」から対立遺伝子Aを受け継いだ実生は裂果しやすく、高酸度で、果汁が褐変しにくい一方で、対立遺伝子Bを受け継いだ実生は裂果しにくく、低酸度で、果汁が褐変しやすい(図3)。
  • DH個体を利用した解析において一部の量的形質の分離が二峰性化し、高感度なQTL検出や遺伝様式の同定が可能なことから、DH個体の利用はヘテロ性の高い果樹のQTL 解析に有効である。

成果の活用面・留意点

  • 上記のQTLは、種子親である「プリマ」の対立遺伝子間の効果の差を検出したものであり、高酸性、果汁低褐変性、裂果性の連鎖関係は、「プリマ」の保有する染色体上で見られるものである。
  • DH品種「リンゴ中間母本95P6」は福島県農業総合センターが品種登録しており、使用にあたっては同センターとの契約もしくは許諾が必要である。

用語

  • 1)ホモ個体:全ての遺伝子座において、同一の対立遺伝子の組合せを持つ個体。
  • 2)倍加半数体:花粉等の配偶子(半数体)のゲノムを薬品等により倍加させた個体。

具体的データ

図1 DH個体を交配親に用いたQTL解析と従来型のQTL解析 (a)花粉親であるDH団体から交雑実生に遺伝する対立遺伝子は同一(C) で、集団の形質分離を引き起こさない,図2 第16連鎖群上に検出されたQTL クラスカル・ウォリス法によりp<0.0001 で 検出された座を有意なQTLとした,図3 第16連鎖群に主要QTLが検出された3形質の交雑実生における分離

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2017年度
  • 研究担当者:
    國久美由紀、滝田雄基(福島県農総セ)、山口奈々子(福島県農総セ)、岡田初彦(福島県農総セ)、佐藤守(福島県農総セ)、小森貞男(岩手大農)、西谷千佳子、寺上伸吾、山本俊哉
  • 発表論文等:Kunihisa M. et al. (2019) Breed. Sci.69:410-419