チャのカフェイン合成酵素遺伝子を利用したカフェインレス個体の選抜マーカー

要約

本マーカーは、チャのカフェイン合成酵素遺伝子TCS1のInDel多型をDNAシーケンシングにより検出するものである。このマーカーによりカフェインレス遺伝子座の遺伝子型を判別し目的の個体を選抜できる。

  • キーワード:チャ、カフェインレス、DNAマーカー
  • 担当:果樹茶業研究部門・茶業研究領域・チャ育種ユニット
  • 代表連絡先:電話 0993-76-2126
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カフェインは覚醒作用や中枢刺激作用があり、チャにとっては非常に重要な成分であるが、カフェインに対する感受性の高い老人や子供には効果が強すぎることもあり、国内外でカフェインレス茶に対するニーズがある。市販されているカフェインを減らした茶は、工業的にカフェインを除去したもので、コストの上昇や、有用な成分の減少といった問題がある。そこで、カフェインを含まないチャの品種の開発を目指している。これまでに、カフェインを含まないチャの近縁野生種の1系統「タリエンシス赤芽」がカフェインレス形質を持っていること、その形質が劣性一遺伝子支配であることを明らかにしている(Ogino et.al., Breed. Sci. 59 (2009) )。現在、「タリエンシス赤芽」に茶品種・系統を複数世代にわたり交配し、「タリエンシス赤芽」のカフェインレス遺伝子を維持しつつ、近縁野生種である「タリエンシス赤芽」の劣悪形質を除去するための選抜を繰り返している。この育種過程では、カフェインレス遺伝子座についてチャ型とタリエンシス型の対立遺伝子を併せ持つヘテロ接合個体を選抜する必要があるが、カフェインレス遺伝子は劣性のため表現型では選抜できない。そこで、カフェイン合成酵素遺伝子(TCS遺伝子)の多型を用いて、目的の遺伝子型を選抜するためのDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • 「タリエンシス赤芽」のカフェインレス形質(Cafless)とカフェイン合成酵素遺伝子群は、「タリエンシス赤芽」のF1世代の系統間の交配で得られた集団から作成した連鎖地図のLG03にマッピングされる。「タリエンシス赤芽」のカフェイン合成酵素遺伝子TCS1は、カフェインレス形質ともっとも近いため、カフェインレスの原因遺伝子である可能性が高い(図1)。
  • 本マーカーでチャとタリエンシスのTCS1について遺伝子型を判別するためには、まず、Forward primer (5′→3′:ACAGCCAGCGCTAGAAAATG)およびReverse primer (5′→3′:CATGGCATGGTCAATGAAAA)で増幅し、ダイレクトシーケンスする。得られたデータからTCS1遺伝子の第2エクソンと第2イントロンの一部を含む525bpの領域に含まれるInDel多型を検出し、このInDelの有無によってカフェインレス遺伝子座の遺伝子型をチャ型ホモ、タリエンシス型ホモ、ヘテロの3通りに判別する(図2)。この開発したDNAマーカーを用いることによりヘテロ接合個体を的確に選抜することができる。

成果の活用面・留意点

  • 本マーカーは、シーケンサーを用いて塩基配列を読み、多型検出をする必要がある。

具体的データ

図1 カフェインレス形質(CafLess)と6種類のTCS遺伝子のマッピング,図2  PCR産物のダイレクトシーケンスによるジェノタイピング

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(園芸ニーズ)、その他外部資金(先導プロ「抹茶・カフェレス」)
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:荻野暁子、谷口郁也、根角厚司、吉田克志、山下修矢、松元哲、福岡浩之
  • 発表論文等:
    • Ogino A. et al.(2019)Breed. Sci. 69:393-400