抹茶特有の香りに重要な低沸点成分

要約

抹茶特有の香りに重要な低沸点成分は、methanethiol(腐敗臭)、dimethyl sulfide(青海苔様)、2-methyl propanal(麦芽様)、3-methyl butanal(カカオ様)、2-methyl butanal(ナッツ様)の5成分である。

  • キーワード:抹茶、香り、低沸点成分、GC-O、安定同位体希釈分析
  • 担当:果樹茶業研究部門・茶業研究領域・茶品質機能性ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

抹茶は濃茶や薄茶としての飲用だけでなく、加工用としての需要が増し、国内外問わず身近な食材として利用されている。抹茶は健康素材としても認知されているが、その風味も用途拡大の一因として考えられ、抹茶の香りの解明に取り組んでいる。その過程において、抹茶特有の香りをジエチルエーテルで抽出すると、その香りをよく再現する抽出物が得られるが、温度45°Cで濃縮すると、抹茶の香りとは異なる抽出物が得られる。すなわち抹茶の香りに重要な成分がジエチルエーテルと共に散逸する。
そこで、本研究ではジエチルエーテルと同様に散逸しやすい低沸点成分をにおい嗅ぎガスクロマトグラフィー(GC-O)とGC-MSで特定し、安定同位体希釈分析法により定量する。特定した成分を指標に、抹茶の香りの散逸を防ぐ加工技術の開発が可能になる。また低沸点成分の濃度を元に、抹茶の風味改善が可能になる。

成果の内容・特徴

  • 抹茶の香りをSPME (Solid Phase Micro Extraction)ファイバーで抽出し、GC-O分析すると、低沸点成分としてmethanethiol(腐敗臭)、dimethyl sulfide(青海苔様)、2-methyl propanal(麦芽様)、3-methyl butanal(カカオ様)、2-methyl butanal(ナッツ様)の5成分が検出される(図1)。
  • Methanethiolを除く、4成分を安定同位体希釈分析法により定量する。Dimethyl sulfideは[2H6]-dimethyl sulfideを、2-methyl propanal、3-methyl butanal、2-methyl butanalの3成分は[2H2]-2-methyl butanalを内標準として用いると、相関係数0.990以上、添加回収率98.0%から102%の精度で定量できる(表1)。
  • 飲用抹茶に含まれるdimethyl sulfideは2.92~17.5mg/kg、2-methyl propanalは0.06~11.1 mg/kg、3-methyl butanalは0.50~5.26mg/kg、2-methyl butanalは1.24~7.08mg/kgである。一方加工用抹茶に含まれるdimethyl sulfideは1.01~12.1mg/kg、2-methyl propanalは0.06~5.05 mg/kg、3-methyl butanalは0.44~3.83mg/kg、2-methyl butanalは0.97~6.70mg/kgである(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 内標準である[2H2]-2-methyl butanalは合成により得る。
  • 分離カラムInertCapPureWAXの保持指標1000以下の成分を低沸点成分とする。なお、保持指標1000以上の成分はジエチルエーテルの濃縮時にほとんど散逸しない。
  • 容量40mLのバイアル瓶に抹茶1gと飽和塩化ナトリウム溶液20mLおよび内標準を加え、温度40°Cに加熱して5分間平準化させる。ヘッドスペースにCarboxen/PDMS (膜厚85μm)を差し込み、20分間吸着部を露出して成分を吸着させた後、GC分析する。

具体的データ

図1 抹茶の香りをSPMEファイバーで抽出しGC-Oで検出された成分とGC分析のクロマトグラム,図2 飲用抹茶(34点)および加工用抹茶(12点)含まれるdimethyl sulfide、2-methyl propanal、3-methyl butanal、2-methyl butanal含量の分布,表1 低沸点成分の定量分析における検量線、再現性、添加回収率

その他

  • 予算区分:交付金、先導pro「抹茶・カフェインレス」
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:水上裕造
  • 発表論文等:水上裕造(2019)茶研報告、128: 23-29