Candidatus Liberibacter solanacearumはニンジンにおいて種子伝染する可能性は著しく低い

要約

Candidatus Liberibacter solanacearum(Lso)の汚染ニンジン種子は、栽培試験において実生苗のLso感染や発病は認められず、さらに統計学的に汚染種子から実生苗へLsoが移行する可能性は極めて低いことから、現在の検疫水準では問題にならないと判断できる。

  • キーワード:種子伝染、伝染確率、Candidatus Liberibacter solanacearum、ニンジン、種子
  • 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・病害ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

国内未発生の野菜病原菌であるLsoは、これまでにニンジン種子を介した種子伝染が疑われており、種子の国際的な流通によって、Lsoが国内へ侵入する危険性や海外でまん延する危険性が懸念されている。このため、Lsoの種子伝染の可能性は、植物検疫上大きな関心事となっている。そこで本研究では、Lso汚染ニンジン種子について汚染種子から発育するニンジン実生苗がLsoに感染・発病するか調査する。さらに、栽培試験結果を用いて種子(種皮部分)から実生苗(胚部分)へLsoが移行する割合について統計学的に算出し、種子伝染の可能性を評価する。

成果の内容・特徴

  • Lso汚染ニンジン種子を播種・栽培すると、播種後3か月目や5か月目の実生苗の葉を用いてLsoの遺伝子検定及び病徴確認ができるという報告があるものの、それを否定する研究報告も知られている。そこで、Lso汚染ニンジン種子由来のニンジンがLsoに感染しているかどうか確認する必要がある。Lsoの遺伝子検定では、まず1次検定として国際種子連盟の手法(https://www.worldseed.org/wp-content/uploads/2017/03/Detection_Carrot_Lso_2017.pdf)に従ってTaqMan-プローブ・リアルタイムPCR法を実施する。次いで、陽性結果が出た試料についてはSYBR Green・リアルタイムPCR法による2次検定及びコンベンショナルPCR法による3次検定を行う。2次検査及び3次検査はLsoを特異的かつ高感度に検出できる遺伝子検査法として農研機構が開発した手法である(https://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/karc/2016/karc16_s03.html;Fujiwara and Fujikawa, 2016))。フランス産のLso汚染ニンジン種子を入手し、2年間に渡り栽培試験を行ったところ、いずれの年においても遺伝子検定の結果、Lsoの感染は認められない(表1)。また播種後3か月目及び5か月目の実生苗では発病を示す病徴は見られない(表1)。
  • ある種子ロットの「種子における感染率pA」を「感染種子数rA/調査種子数nA」および、同じロットの種子を用いて「苗における感染率pB」を「感染苗数rB/調査苗数nB」を求め、これらの値から「種子への感染圧の推定値(λ)」を計算しておく。このようなデータを複数のロットで集積すれば、伝染確率に関する「フィッシャー流95%信頼区間」を計算することができ、種子から苗への伝染確率はこの信頼区間の内側にあると解釈することができる(表2)。本研究では種子伝染確率の95%信頼区間上限値は約0.28%となる(表2)。この値は、日本の輸入検疫において、荷物に含まれる不良植物の限界寄生率(山村,2011)と比較しても十分に低く(0.3%)、現実的に起こる事象とは考えにくい。
  • 本研究によって、ニンジンにおいてLsoが種子伝染する可能性は著しく低く、現在の検疫水準では問題にならないと判断できる。

成果の活用面・留意点

  • 植物防疫所や海外の植物検疫機関において、植物検疫行政を支える科学的知見として利用できる。国際的な種苗業界において、ニンジン種子の流通に伴う品質管理を支える科学的知見として利用できる。

具体的データ

表1 発育試験によるLso感染及び病徴確認,表2 種子伝染割合の「フィッシャー流95%信頼区間」の上限値

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)。
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:藤川貴史、山村光司、大﨑康平、佐藤仁敏
  • 発表論文等: