ビワ果実の成熟日は開花後の気温の経過から精度良く予測できる
要約
全国の露地で栽培されるビワ主力品種「茂木」と新品種「BN21号」およびビワ系統長崎24号の果実の成熟日は、開花時期の早晩や成熟日数の長短が異なる各地域や各年において、開花後の日平均気温のみから高精度に予測できる。
- キーワード:ビワ、DVR、果実成熟、予測モデル、温度
- 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・園地環境ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-6506
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
露地で栽培されるビワでは、果実の生育がその年の気象の影響を大きく受けるため成熟日の予測が難しく、出荷計画や販売計画に支障をきたしている。そのため、気象の経過から成熟日を精度よく予測できる技術の開発が求められている。本研究では、ビワの樹体を温度処理することで温度と果実の成熟速度との関係を明らかにし、温度処理実験データと露地における生育データを用いて、開花後の気温の経過から果実の成熟日を予測するモデルを作成する。
成果の内容・特徴
- ビワ3品種(「茂木」、「BN21号」、長崎24号)について、果実の成熟期に各品種のポット栽培樹を温度の異なる複数の人工気象室に振り分け、果実の成熟速度を表すDVR(1日当たりの果実の成熟の進み具合を数値で示したもの)と温度との関係を調べると、各品種ともに温度が高いほどDVRの値は大きくなる(図1)。
- 成熟期における温度とDVRの関係を基に、品種毎に成熟日を予測するモデルを作成すると、
- 「茂木」
- :DVR=0.00107299×日平均気温-0.00578827
- 「BN21号」
- :DVR=0.00172239×日平均気温-0.01284770
- 長崎24号
- :DVR=0.00148272×日平均気温-0.01020741
を得る。このモデルでは、開花期終翌日からDVRの計算を毎日行い、日々のDVRの積算値が1に達した日が成熟日になる。なお、DVR<0と計算される時には、DVR=0と見なす。 - 本モデルは、ポット栽培樹を人工気象室を用いて幼果期と果実肥大期に中温な条件(幼果期:9°C、果実肥大期:15°C)、幼果期に高温な条件(13°C)、果実肥大期に低温な条件(11°C)あるいは高温な条件(19°C)で生育させたいずれの場合の成熟日も精度良く予測できる。
- 本モデルを用いてビワ主産県における露地栽培樹の成熟日を推定すると、各品種ともに地域や年による偏りがなく予測を行える(図2)。実際の成熟日と予測の成熟日の二乗平均平方根誤差(RMSE)は「茂木」で3.9日、「BN21号」で4.2日、長崎24号で2.9日で、開花時期の早晩や成熟日数長短などの条件が異なる各県の露地栽培樹の成熟日を高精度に予測できる(表1)。
成果の活用面・留意点
- 温度処理実験における中温の設定温度は、長崎県のビワ果実の開花から成熟までの各時期の平均気温に基づいている。
- 本研究で作成したビワ果実の成熟日予測モデルは、品種毎に各ビワ主産県の成熟日をひとつのモデルで推定できるため、解析に用いた県以外のビワ産地でも活用可能である。
- ビワ主産県における露地栽培樹の果実の成熟日の推定には、試験地が位置する「農研機構メッシュ農業気象データ」を用いている。
具体的データ

その他
- 予算区分:競争的資金(イノベ創出強化)
- 研究期間:2017~2019年度
- 研究担当者:
紺野祥平、杉浦俊彦、谷本恵美子(長崎農技セ)、稗圃直史(長崎農技セ)、蔦木康徳(千葉安房農事)、山田英尚(香川農試)、岩田浩二(鹿児島農総セ)
- 発表論文等:紺野ら(2020)生物と気象、20:41-48