同一ほ場内においてもカキ幼果の放射性Cs濃度は樹体によって異なる

要約

福島県県北地方の現地4ほ場内の全樹体のカキ幼果の放射性Cs濃度の調査では、樹体によって幼果の放射性Cs濃度が異なり、放射性Cs濃度が高い樹体が稀に存在している。地表面付近の汚染程度、樹体の表面線量、および樹体の幹周長と幼果の放射性Cs濃度との関連性は認められない。

  • キーワード:放射性Cs、あんぽ柿、カキ、幼果
  • 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・園地環境ユニット
  • 代表連絡先:電話 024-593-1310
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

「あんぽ柿」は福島県における主要な特産果実加工品である。東京電力福島第一原子力発電所の事故により、大きな影響を受けた県北地方では、事故後2年間の出荷停止後、幼果検査および出荷前の放射性物質検査(スクリーニング検査)の2段階の検査体制を構築し、製品の安全性を確認した上で出荷を再開している。幼果検査により原料果の放射性Cs濃度を確認しているものの、スクリーニングレベルを超過する製品がわずかに存在している(0.04%(2017年))。幼果検査はほ場単位の抽出検査であるため、個々の樹体毎のばらつきまでは把握できておらず、このことがスクリーニングレベル超過の要因となっている可能性が考えられる。
そこで本研究では、栽培されている全ての樹体において幼果の放射性Cs濃度を測定し、同一ほ場内でのカキ樹体個々のばらつき明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 幼果の放射性Cs(137Cs)濃度は、いずれのほ場においても20Bq/kg以下の割合が最も多い。一方、137Cs濃度が50Bq/kg以上となる幼果も確認される(表1)。
  • 地表面付近の汚染密度指数は同じほ場内でも数メートル単位で大きく異なる場合があり、地表面付近の汚染密度指数と幼果の放射性Cs濃度との間に有意な相関関係は認められない(図1(A))。
  • 樹体の表面線量と幼果の137Cs濃度に相関関係は認められない(図1(B))。
  • ほ場Dにおいてのみ、幹周長と137Cs濃度の間に有意な相関関係が確認され(図1(C-1))、それ以外のほ場では相関関係に有意性は認められない(図1(C-2))。

成果の活用面・留意点

  • 土壌や樹体表面の汚染程度からリスクの高い果実を生産する樹体を推定することは困難であるため、現状での対策としては、幼果や原料果実濃度を個々の樹体ごとに調査する必要がある。
  • 地表面付近の汚染密度指数は、歩行型放射能測定システムKURAMA-IIを用いて取得した空間線量率データを用いて算出している(汚染密度指数=下向き検出器指示値-立体角係数0.4×地上1m空間線量率)。
  • ほ場Dでは、幹周長の大きな樹体は、ほ場辺縁部に多く栽培されており、ほ場辺縁部が強く汚染されたことが幼果の放射性Cs濃度に影響した可能性もあるため、幹周長と幼果の放射性Cs濃度の関係は精査が必要である。

具体的データ

表1 幼果の137Cs濃度,図1. 地表面、樹体の汚染および幹周と幼果の137Cs濃度の関係

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(営農再開)
  • 研究期間:2017~2018年度
  • 研究担当者:関澤春仁(福島県農総セ)、堀井幸江、桑名篤(福島県農総セ)、八戸真弓、濱松潮香
  • 発表論文等:関澤ら(2019)RADIOISOTOPES、68:345-354