ゲノム編集技術によるオボムコイド遺伝子欠失ニワトリの作出

要約

オボムコイド遺伝子配列の一部を欠失するように設計したCRISPR/Cas9ベクターをニワトリ始原生殖細胞に導入し、これを移植したキメラニワトリを介することにより、両アレルのオボムコイド遺伝子が欠失したニワトリが作出できる。

  • キーワード:家畜育種、ニワトリ、始原生殖細胞、細胞培養、ゲノム編集、オボムコイド
  • 担当:畜産研究部門・家畜育種繁殖研究領域・有用遺伝子ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

鶏卵は人の生活にとって不可欠であり、食品としてはもちろんワクチン生産など様々な用途に用いられている。しかしながら、卵白には強力なアレルギー反応を引き起こす可能性のある成分が含まれており、ワクチン投与等において慎重さが必要とされている。特にオボムコイドタンパク質は加熱や消化酵素によってもアレルゲン活性を失わない。そこで、オボムコイドタンパク質を卵白中に含まない卵を生産することを目的として、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集によりオボムコイド遺伝子配列の一部を欠失したニワトリを作出する。

成果の内容・特徴

  • オボムコイド遺伝子をコードするDNA配列の一部を欠失させるガイドRNAを設計し、CRISPR/Cas9システムが細胞内で図1のように働くベクタープラスミド(以下 プラスミド)を構築する。プラスミドには、薬剤耐性遺伝子の配列も組み込む。
  • 約2.5日間孵卵した雄ニワトリ胚を採血し、血液中から分離した始原生殖細胞を培養する(図2)。
  • リポフェクション法によりプラスミドを培養始原生殖細胞へ導入した後、抗生物質を含む選択培養液内で細胞を培養し、プラスミドが導入された細胞を選別する。
  • プラスミドが導入された培養始原生殖細胞を雄ニワトリ胚に移植して孵化させ、生殖系列がキメラとなった雄ニワトリ(G0: 第0世代)を作出する。
  • 2羽のG0ニワトリを野生型の雌ニワトリと交配して得られた後代(G1)85羽のうち、62羽(72.9%)が移植した培養始原生殖細胞由来であり、そのうち33羽(53.2%)が父親由来のオボムコイド遺伝子が欠失しているニワトリである。欠失している塩基配列は、1bpから31bpまで多様である。
  • 塩基配列が4bp欠失した雌G1ニワトリと19bp欠失した雄G1ニワトリ同士の交配により、父親および母親両方由来のオボムコイド遺伝子が欠失したニワトリ(G2)を得ることが出来る(図3,4)。

成果の活用面・留意点

  • 本法で作出したオボムコイド遺伝子欠失ニワトリの生産する卵がアレルゲン活性を持つオボムコイド関連タンパク質を含有するかどうかは未確認である。
  • CRISPR/Cas9システムを用いて遺伝子欠失ニワトリを作出する場合には、設計したガイドRNAが標的となる配列以外の部位を切断するオフターゲット作用が起きていないことを確かめる必要がある。

具体的データ

図1 CRISPR/Cas9システムによるオボムコイド遺伝子配列の切断様式(左)とDNA修復時に生じる遺伝子欠失(右)の模式図?図2 ゲノム編集によるオボムコイド遺伝子欠失ニワトリの作出法?図3 ゲノム編集によるオボムコイド遺伝子欠失ニワトリ(G2)?図4 両アレルのオボムコイド遺伝子が欠失したニワトリ(G2)の遺伝子型解析

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2016年度
  • 研究担当者:田上貴寛、宮原大地、大石勲(産総研)
  • 発表論文等:
    1)Oishi I et al. (2016) Sci. Rep. 6:23980. Doi: 10. 1038/srep23980
    2)大石ら「家禽始原生殖細胞の遺伝子改変方法、遺伝子改変された家禽始原生殖細胞、遺伝子改変家禽の生産方法及び家禽卵」特願2014-132007(2014年6月27日)