乾乳前期の栄養水準は、分娩後の栄養代謝に影響する

要約

乾乳前期40日のエネルギー水準を要求量の80%に制限すると、分娩直後の血漿中グルコースおよびケトン体の濃度変動と泌乳期のルーメンエンドトキシン産生が抑制される。乾乳前期の栄養制限は、分娩後の代謝障害リスクの低減に寄与する。

  • キーワード:乾乳前期、乳牛、栄養代謝、ルーメンエンドトキシン
  • 担当:畜産研究部門・家畜代謝栄養研究領域・代謝・微生物ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

乳牛の泌乳能力向上に伴い、分娩後における負のエネルギーバランス(NEB)を原因とする代謝障害が増えている。分娩後の代謝障害リスクを低減するために、分娩前のエネルギー収支をも一体的に管理する精密な飼養管理技術が求められている。近年、北米での研究から乾乳期を前期40日と後期20日に分けた栄養管理により、分娩後の乾物採食量を向上させて泌乳前期におけるNEBを改善出来る事が解ってきた。しかしながら、乾物前期の栄養管理と分娩後の栄養代謝との関連については不明である。本研究は、日本型酪農における精密栄養管理技術の開発を目的に、乾乳前期の栄養水準が分娩後の栄養代謝に及ぼす影響について検討する。

成果の内容・特徴

  • ホルスタイン種経産牛26頭を分娩予定日の60日前に3区に分ける。供試牛は前産次で乳量10000kgを超えた個体を選ぶ。乾乳前期にエネルギー要求量の120%を給与する高栄養区、105%の適栄養区、そして80%に制限する低栄養区である。分娩予定日20日前からの乾乳後期および泌乳期の栄養管理は3区全て同じ、エネルギー要求量の100%にする(図1)。
  • 乾乳前期の栄養水準を反映して、乳牛の脂肪蓄積等の栄養度指標であるボディコンディションスコア(BCS)は、高栄養区では分娩時にかけて高まり、泌乳期においても適および低栄養区を上回って推移する。低栄養区のBCSは、乾乳期に変動は無く分娩直後に低下するものの、泌乳15週目には分娩時レベルまで回復する(図2)。
  • 血漿グルコース濃度は、分娩直後の一過性増加とその後の低下が見られるが、低栄養区における変動は高および適栄養区に比べて有意に小さい(図3左)。血漿ケトン体濃度も、低栄養区は分娩直後の上昇が抑えられる(図3右)。
  • ルーメンエンドトキシン(LPS)活性値は、乾乳前期終了時に適および高栄養区が低栄養区を上回るが、後期には全ての区で同じレベルを示す。泌乳期ではLPS活性値は徐々に上昇するが、適および高栄養区は低栄養区に比べて著しい上昇を示し、個体差も大きくなる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 乾乳前期の栄養制限が、分娩直後ならびに泌乳期における栄養代謝の変動を制御することを明らかにした初めての知見である。
  • 乳牛の分娩後の代謝障害リスクを低減する乾乳期栄養管理技術の基礎的知見である。
  • 乾乳前期の栄養制限は、乾物摂取量を充足させる必要がある。また、乾乳開始時のBCSによってはエネルギー制限が適さない可能性がある。

具体的データ

図1 試験設計?図2 BCSの推移?図3 血漿グルコース濃度および総ケトン体濃度?図4 ルーメンエンドトキシン活性値

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2011?2016年度
  • 研究担当者:櫛引史郎、杉野利久(広島大)、館野綾音(栃木畜セ)、沖村朋子(富山畜研)、川嶋賢二(千葉畜総研)、平林晴飛(群馬畜試)、鈴木有希津(全酪連)、朝隈貞樹(北農研),磯部直樹(広島大)
  • 発表論文等:Hirabayashi, et al. Effect of nutrient levels during the far-off period on postpartum productivity in dairy cows. Anim. Sci j. in press.